好きになるまで待ってなんていられない


帰り支度をして、挨拶をして事務所を出た。
月末だ。
遅くはなったが、日常だ。


プッ。

…。

プッ、プッ。

…。

プップププップ、プップ。

…ヤンキーのお兄ちゃんですか?……しつこい。

絶対車道なんか見ない。
なんか、これって、歩くスピードに合わせて並走してるでしょ…。
ウィーン。窓、開けたみたいね。

「お嬢さん、お嬢さん?」

間違いない、聞き覚えのある声だ。

「お嬢さん、ご飯行きません?」

「お嬢さんじゃありません。行きませんとお断りしました」

「お姉さん」

…。

「とっくに、お姉さんじゃありません」

…。

「ハハハ」

何が、ハハハよ…。この不良中年が…。フリーになって、たがが外れたか。
…待って。自分で離婚する事になったって言ってるだけで…嘘かも知れない。
足を止めた。

「お、行く気になったか?」

…何、もうこの軽さ…。
言葉とは裏腹。通り過ぎる運転席に見えた顔は真面目な顔つきだった。


車はハザードを点滅させ、少し前で停まった。
降りて来た。

「ちょっとつき合ってくれないか」

何だかよく解らない。だけど、何かありそうな気がした。
余計な勘繰りかも知れないけど。

…こんなに簡単に車に乗せられて。
私が金持ちのオバサンだとしたら、何度も誘拐されている。
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