好きになるまで待ってなんていられない
「もう…。それで…これからどこに連れて行かれるんでしょうか」
…。
ちょっと…。黙るなんて狡くないですか?
「ご飯、だけど?」
ご飯って言葉はやめて貰えませんか…。…純粋にご飯と受け取れないんですけど。
「ご飯って、本当のご飯ですか?」
「本当じゃないご飯ってあるのか?」
…。
「覚えてるんだな」
「え?」
「誘い文句」
…。
「…離婚届、今日出したんだ」
「あ…そうなんですか」
「一人になった。だから純粋に飯につき合ってくれ」
あ…ちょっと待って。
「…社長。今日は駄目です。これだと私、離婚を待ってた女みたいじゃないですか。だから駄目です」
「俺は浮気とか、そんなんで離婚した訳じゃ無い」
「外目には解りません」
「それはどっちも解らないって事だろ?」
「え?」
「今日が離婚した日だって事も、離婚原因が何かって事も、誰にも解らない。それを気にするのは事情を知ってる人間だけだ」
「あ…離婚したからって、今日のこの日に、女と居たなんて事が奥さんに知れたら、社長の立場が悪くなります。慰謝料の請求だって出来るんですよ?」
昔の事とはいえ、全く無関係じゃない。だからそこを突かれたら…。
「心配なら要らない。俺の心配もだ。例え成美に請求されても俺が出す。…昔の事なら、とうに時効だ。心配無い」
「それでも…、待ってください」
「まあ、聞け」
…。
「俺らの離婚は協議離婚で、子供の養育費も要らないと言われた。何故だか解るか?」
…。
「結婚した時から、あいつは別の男とつき合っていた。厳密に言えば結婚する前からだ。つまり、あいつの不倫が離婚の理由だ」
「え、何ですか、それ。そんな…嘘…」
「子供は俺の子じゃない。一人目の子から俺の子じゃないんだ」
「…え?…そんな事…解んないでしょ?…調べたんですか?」
「二人目も、三人目も違う…、解るか?それが意味する事」
「え…ずっとですか?あ、…ごめんなさい」
「いや、いい。気にするな」
…それはつまり。
「俺に子供が欲しいと言って来たタイミング、つまり、俺との子供が出来たようにセックスを求めて来た時は、自分が妊娠したと解った時だからだ。しておけば、俺との子だって誤魔化す事が出来る」
…そんな、…。
「そんな…」