好きになるまで待ってなんていられない
「そんな…そんな事、…あるんですか?本当に?私は社長の言う事しか聞けません。本当かどうか解らない。でも…」
…そんな酷い事、…。じゃあ何故結婚したの…。
「…そうだな。俺の面白おかしい、作り話かも知れないな。全部よく出来た嘘かもな…」
「…面白い話なんかじゃない。どうして…、こんなに長く…どうしてもっと早く…」
…、あ。
「何も知らずに生まれてきた子供にとって、俺は父親だからな。みんな…一月、二月くらい早産だったんだ。だけど実際は早産じゃないけどな。解ってて、あいつの言うように従った…。
結婚した男は、嫁さんが言う事をそうそう疑ったりしないもんだろ?血液型も詳しく調べなければ解らない。同じAだからな。
ずっと…あいつが言うように…従ってるふりを続けた。
子供の顔だって、実の子でも実際似てない親子も居るし、嫁に似てると言われたら、そうかと思う。そんなもんだ。
俺は知ってたよ?結婚して直ぐから、俺の子じゃないって。何もかも飲み込んだのは…全ては円滑に過ごす為だった。
あいつの相手には結婚出来ない理由がずっとあった。それがやっと解決したって事だ。
俺らの離婚は、そのタイミングであいつが待ち望んだものだ」
…。
「妊娠した身体は違うんだ。変わるんだ。特に着けずにするだろ?子供が欲しいって言うんだから。…解るんだ」
…。
「…抱けば、違うって解るんだよ。身体は正直だからな。妊娠している身体は通常でも体温も高いし…それに、…色々とな」
…。
「何も知らない子供の為に今まで一緒に居た。いつかは話すのかな…、あいつがあの子達に。
もっとずっと、大人になった頃にでも」
「…馬鹿ですか…。…社長は馬鹿ですか?こんな事…、切な過ぎます。我慢し過ぎです」
「フ。さあなぁ。ま、そんなもんじゃないか?俺の人生」
「いい…、お父さんですね…でも…なんだか悔しい…」
「そうか?なんだ…馬鹿、成美が泣くな。これは俺の事だ。はぁ…ずっと誰にも言えなかった。…やっぱり苦しかったよ。成美に余計な事、話した俺が悪かったな…関係ないのに」
頭に手を置かれた。運転してるのに肩を抱くようにして寄せられた。
「これは下心でもセクハラでも無いからな」
運転席と距離はあっても、身体が大きい社長は余裕で腕を回す。
「前から見たら、節操の無いやらしい不倫カップルかなぁ」
…もう、直ぐそんな事を言う…。
「フ、馬鹿ですか?…そんなのは、見ただけでは関係性なんて誰にも解りません」
「そうだったな」
「あ、もう大丈夫です」
私がいつまでも泣いていてはいけない。
「なんだ…もうお役御免かぁ」
この口は生れつきのモノなんだろうか。作ったモノなのだろうか。
立ち直りが早いとか、傷ついているか、いないとかでは無く。
この人にとって今は救いかも知れない。普段は、得か…損か。
この人の本性を理解しようとするなら、言葉に惑わされず、じっくり性格を読み取るしかないだろう。
ただのおちゃらけた人では無いと、どこまで人は理解するだろう。