好きになるまで待ってなんていられない
「なあ、成美」
「はい」
「大真面目なんだけどな、俺」
「…はい」
それは…解ったつもりだ。
「私、…」
「俺さぁ、もう結婚はしないつもりなんだ。パートナー関係がいいんだ。
都合のいい話だとは思ってる。
結婚に懲りたとは違うんだ。婚姻届も出さない。一緒に居るなら事実婚だ。
時々会うくらいなら、事実婚の週末婚だ。お互いの生活は無理して崩さない。だけど好きな女は俺だけのモノだと思いたい。自由だけど誰にも渡さない。
俺、男としてはずっと情熱的だからな?」
…本当、都合のいい条件。
「社長…」
「待て。何も言わないでくれるか?今日は内容が濃すぎる。
まして、駄目だった時のおちゃらける心の準備も出来てない。何度聞いても返事が無いから、勝手に勘繰って悪いが、成美が関係を持つような男が居る事も、解っているつもりだ。違わないだろ?」
…。
「まあ、否定しないんだからそうだよな。…昔、俺とちょっとあったからって、独占欲を持ってる訳じゃない。昔は昔、今は今だ。…一度終わってる。
俺は結婚はしていたが、こんな結果になった結婚だ。成美にとって、今更、何の対象にもならない男かも知れない。
こうやって強引にしてるようなところも、敬遠したい部分なのかも知れない。自分の会社の社長になんて、金輪際関わりたく無いと思ってるかも知れない。今以上…仕事がし辛くなるじゃないかってね。
でもな…、好きなものは好きなんだ。オジサンになっても、好きな女は…ずっと好きなんだ。
俺はあの時、成美に慰めを求めていた訳じゃないからな。今更綺麗事を言ってる、なんて取るなよ?
俺は成美に惚れたから、面接で即決めた。他の応募者なんか片っ端から面接もせず断った。
関係を終わらせても、居て欲しかった。初めから公私混同だ。内面は純粋でも、外から見たらそれは明らかに不倫だ。
愛妻でも無いのに、色々家の事を話して、成美を妬かせようとした。
だけど、ちっとも…そんな素振りも見せてくれない。
…終わらせようとしたら、すんなり従う。何も言わない。成美の方がずっと冷静な大人だったな…。あー、…よく喋ってるな、俺」
…。