好きになるまで待ってなんていられない
「成美、飯、作れるか?」
「…え…は?え?どういう意味ですか?」
話が飛んだ。
「俺ん家に行こう。何もしない。大丈夫だ。うちで飯作ってくれ」
…社長が社長に完全に戻ったのかしら。聞き手に徹していたら、気が抜けていた。
「…はぁ、もう、どんだけ振り回すんですか?世間一般的に、何もしないって部屋に呼ぶ男子は、大丈夫だから大丈夫だからって言いながら、何かするんですよ?…押し倒すんです。
…解って言ってるから質が悪いです。それに、きっと何もしないって言葉を信じて、この女は来てくれるはずだって、思ってる」
「正解!」
「もう、本当に…。いいですか?どんな状況になっても、社長と従業員です、いいですね?」
「解ってる…じゃあ、いいのか?」
「はぁ…。お魚の煮付け、食べますか?どこか遅くまで開いてるスーパーはありますか?
お家に鍋とか調味料はあるんですか?」
「成美…。やっぱりお前から俺に寄って来てる」
「はあ?」
「何気なくポロッと言った事、覚えてくれている。そういうところ、出来るようで出来るもんじゃ無い。覚えていてくれた事、嬉しいもんなんだ。
何でもそのままあるから大丈夫だ。
スーパーは近所に遅くまで開いてるところがあるから大丈夫だ。あー、だけど魚は残ってるかな〜」
御飯を作りに行く事…いいか悪いか、今日は考えないでおく。
子供みたいに喜んでくれているなら、今日くらい自分にも目を瞑る事にする。
「あ、でも社長、最初の問題になります。部屋に行くなんて、ご近所さんの目が…」
「大丈夫だ。誰かに会うことはまず無い。住宅街だ、こんな時間にウロウロしている人はいないだろ。誰かにあったら親戚だと言う。スーパーの袋を持っていても怪しくない。
一人…やもめになった俺の、ご飯の世話に来てくれたと思うだろうから。だから自然に振る舞えばいい。変に動揺しないで堂々としていたら大丈夫だ。疚しい事なんか何も無い」
そんな…都合よく思ってくれるものかな。離婚した男だって近所に触れ回ったの?
有ること無いこと騒ぎたいのが普通によくある事だと思うけど。
…。