好きになるまで待ってなんていられない
−無事−
「御馳走様。どれも旨かった。有難うな、成美。悪かったな、急に我が儘を言って」
「らしくないですよ、社長。そんな殊勝な事。こんな時、社長なら、次は何々を作ってくれとか言うんじゃないですか?」
「…そうだな」
「えっと、お茶にしますか?それとも珈琲、入れましょうか」
「ん…そうだな、珈琲にしようかな」
「はい。と言っても場所が解りません」
「ん、解った」
社長は腰を上げ、カップを出し、しまってある珈琲を出した。
「お湯、沸かしますね」
「…ん」
「ん?社長?なんか萎んでないですか?」
…。
聞き方が悪かったかな。
さっきから返事も少し上の空な感じだし。やかんを火にかけた。
「本当は味付けが口に合わなかったのに、無理して食べてくれたんじゃないですか?なんか…、元気ないみたいに見えますけど?…胃もたれとか、大丈夫です?」
…。
味見をして貰った辺りから、返事の歯切れが良くなかったのは感じていたけど。長年慣れた好みの味付けではなかったかも知れない。…仕方ないけど。
こんなに返事もしない程、無口になるなんて…。
「近くにコンビニありましたよね?何か口直しになる物、買って来ましょうか?
必要な物はありませんか?無くなってる物とか。あったら、それもついでに買って来ましょうか?」
…。
「…いくなら一緒に行く」
…。
「…珈琲飲んだら…散歩がてらに行く」
「社長?」
あ、本当に急に様子が可笑しくなったみたいなんだけど。何か考えてるの?
う〜ん…。珈琲飲んで一息入れたら、また元の社長に戻るかも知れない。
…あ、結構遅い時間になってるけど。
「社長?駅は近くでしたっけ。もしくは…、バス停、う〜ん、タクシー乗り場はやっぱり駅前ですか?」
…。
あ、また黙ってしまった。
「社長、…遅くなると、私、帰りの…」
…。
「…成美」
「は、い?」
「泊まって帰れ」
「え?はっ?流石にそれは有り得ません」
…それを考えて…どうしようかって、無口になってたって事?
「明日、休みだ…」
「それはそうですけど。それとこれとは全然違う話です。問題が違います」
…。
「まあ、コンビニに行こう」
言ってる事は勿論困る事だし、なんか…様子は変だし。
帰る手段も決めて無いのに…。
どうしようかな。