好きになるまで待ってなんていられない
口直しの物がいるとも言わないし、私的には特に買いたい物はない。
散歩に出たいと言う社長につき合う事にした。
時間的に遅いという事もあるけど、家族で生活すると決めて住み始めた部屋なのか、元からなのか知らないが、外を歩いて見ればとても静かな地域だ。
珍しく運動遊具の揃った公園があった。キャッチボールやサッカーも出来る、広い公園みたいだ。最近は禁止されてる公園が多い中、恵まれているな。
子供さんが小さい頃はきっとここで一緒に遊んだのだろう。
天気が良ければ週末はずっとだったかも知れない。
正直、帰るなら、こんな呑気になんてしていられない。
泊まれなんて言うくらいだから…社長は送ってくれるつもりは無いのだろうか。
最初にはっきり強く決めておけば良かった。
ご飯は作りますけど帰りますから、って。
でもそれは、こっちから言うと、意識しているみたいで変だ。…言わなくても当たり前、一連の流れだと思うんだけど。
社長の気持ちを考えたら、四の五の言わず、やはり強く決めておくべきだった。
「成美、コンビニ、入るけど?」
私はいいかな。甘いものも要らない。
社長は自分で好きな物、買うつもりなのね。
「私は…月が綺麗だから、ここで見て待ってます」
駐車場に車も無いから大丈夫だ。
角が丸くカーブした四角いガードに腰を乗せ、車止めのブロックに足を乗せた。
「そうか、じゃあ、俺はちょっと…」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
社長って甘党だったかな…。それともお水とかビールかな。
それにしても…、はぁ、少しひんやりとした空気も気持ちいい。
一人じゃなきゃ怖くないから、夜の散歩もいいものだな。
滲んだような月は少し色が薄いのかな。
輪郭が滲んで見えるのは私の視力のせいだろうけど。
…天気が徐々に崩れていくのかな。
「待たせたな」
「あ。はい、いいえ」
ちょっとって言うのは時間の事だったんだ。男の人の買い物は早いって言うし。
割と大きめの袋と小さい袋を手にしていた。
「早かったですね。ずっと月を見ていたらあっという間でした。全然待った気がしないです」
「そうか」
ここから自分の部屋まで歩いて…走って、帰るには距離は大分ありそうだ。どんなに距離はあっても、歩いて進んでさえいれば、いつかは辿り着けるだろうけど。
車で移動してた時、どのくらい乗ってたかな…。話してたし、途中で寄り道もしたから具体的な距離もよく解らない。
まだ雨も降りそうに無いし、治安さえ良ければ、歩いても無事帰れるかも知れない。