好きになるまで待ってなんていられない


食器を洗って片付けた。
社長は珈琲を飲んでいる。

片付けを手伝うというのを断った。あまり近くに居て貰っては困る。
社長はどうか解らないが、私が無理だ。

更に、昨夜の夢が輪を掛けてしまってる。反応してしまう身体は情けない。
気持ちでコントロールなんて出来るものではない。だから情けない。

大人って、どうやって生きて行けばいいんだろう。
若い時は一途で夢中で…、未熟だから許される部分もある。
大人になっても、一途で夢中な恋が無い訳じゃない。
だけど許されない事がある。

大人だから、大人の対応を、って、なんだろう。
感情をコントロール出来るかって事?

…。


「成美。昨夜、成美の事を考えていた」

丁度、片付けも終わり、珈琲カップを手にテーブルに着こうとしていたところだった。
返事を返すことも無く腰掛けた。


「…初めてした日の事を思い出していた」

…。

一瞬で…簡単に思い出してしまった。
身体の芯が熱くなる。
昨夜、私は貴方と初めてした日の夢を見ていました。
そう同調しない方がいいだろう。
動悸が激しくなる。


「…こんな事を話している事が、どうかしている…」

もう、心の逃がしようが無い。成美、お互い一人だと思ったら感情は抑えられないんだ。


「あの日は成美の誕生日だったな」

あ。

「知ってたんですか?」

「ああ、知ってて、その日にした」

あ、でも、あの日、もし安全日じゃ無かったらどうしたんだろ。日を変えて…誘い直していたのだろうか。それとも着けて…。

「成美が俺の事を覚えていてくれたらいいなと思ったんだ。勝手だよな。…狡い近寄り方をした。だから…、もし、安全な日じゃないと言われても、俺は着けずにしていた。持っていてもだ。
成美とどうしてもしたかった。止められないと解っていた。俺は…29だったか…」

…そうです。
あの日、私は25で貴方と初めてして、26になって、して、…貴方が帰った日。

あの日が始まりだった。
あの日だけは社長が遅くまで部屋に居た日、だから誕生日は二人で迎えた。そして少し長く一緒に居られた。

それはきっと、あの日都合を付けてくれたのだ。誰よりも一番に誕生日を祝ってくれようとした日だと思った。
この先、心は無い関係になるのだと思っていたけれど、その日だけは違うと思っていた。…そう思いたかった。
おめでとうは無かった。おやすみと呟いて帰った。
おやすみには、言わなかった言葉と、隠された心があるんだと思いたかった。
そう思う事にした。

口に出さない言葉を推し量って、自分の望み通りに勝手に感情を感じ取っていたと思う。
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