成すべきことは私が一番よく知っている
 しかもそれだけが、清美の悩みのすべてではなかった。
 もし万が一、拓海の告白を受けたとしよう。学園中の女子生徒たちはおろか、彼を崇拝している親友までをも裏切ることになる。
 そんなのはいやだ。朱里とはずっと友だちでいたい。
 すなわちこういうことだ。今の清美に課せられた選択肢は二つ。友情か否、恋情か。告白を受けるか、退くか。これしかないのだろうか?

「………………」

 本当に、どうして自分なんだろうか。朱里は。朱里ではだめなのか。彼女の方が明るいし、少なくとも自分よりは、一緒にいて楽しいはずだ。自分では、どうしたって彼には釣り合わない。

「き~よみっ!」

 肩を叩かれ、またしても心臓が跳ね上がる。朱里だ。

「なにボーッとしてんの?」

 言われてようやく、椅子に着席して一時限前の教材を机の上に放り出したまま頬杖ついて窓の外を眺めていたことに気付いた。どうやら悩んでいる間に、一時限目が終わって休憩時間に入ってしまったようだ。

「ねぇ、朱里。聞きたいんだけどさ」

「何?」

「もし大切なものが二つあって、それをどちらか一つしか選べないような場合……。朱里だったら、どうする?」

「は? 何それウケる」

「いいから答えて」

 問われた朱里は、しばらく眉寄せて考えたあと、

「う~ん、そうだなぁ。ウチだったら、両方選ぶかな!」

「……はい?」

「だって両方大切なものなんでしょ? なら、両方選ぶ! 当ったり前じゃん!」

「あっそ……。あんたに聞いた私がばかだったかも」

「ちょっと! 聞いておいてその態度はなんなのさ!」

「いやごめん。率直な感想だから気にしないで」

 チャイムが鳴った。二時限目開始の合図だ。朱里が自分の席に戻っていく。

 
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