成すべきことは私が一番よく知っている
 担当教師の眠気を誘う声を聞きながら、清美は先ほどの会話を何度も脳内で再生していた。
 両方大切なら両方選ぶ。大切な友人はそう言った。案外、的を得ていることだと思う。別にいいじゃないか。両方選んだって。なにもどちらか片方というルールはないはずだ。

「…………よし」

 決心した。清美は通学鞄からルーズリーフを取り出して何かを書き込み、それを何の変哲もない封筒に入れた。
 昼休みになった直後に、弁当を一緒についばむ予定だった朱里に「手洗い」と告げて教室を飛び出し、タイミングを見計らって拓海の靴箱に、これを押し込んだ。
 彼の靴箱内には先客がいた。ハートマークで封を綴じてあるレターが数十枚、狭い箱の中で苦しそうにひしめき合っていたけれど、まあ拓海なら自分のメッセージに気づいてくれるだろう。気づかなかったら所詮それまでの男だったってことで。

『放課後、屋上で待ってます』

 便せんには、こう記載した。ありがちな文面だと自分でも思う。いやむしろ、こういう経験のない清美にしては妥当な文といったところだろう。まさかこの人生において、本当にこんな文を書くことになるとは。

「先生にノート提出するから、先に行ってて」

 放課後になると、朱里に事前にそう断って校舎の外へ追いやっておいた。これで邪魔者はいなくなった。

「…………よし」

 準備は完了した。あとは屋上に行って拓海を待つだけだ。

「やあ」

 現場にたどり着くと、そこで待っていた人物に声を掛けられた。彼本人だった。

「キミから呼び出しをくらうことになるとはね」

 守屋拓海は、一枚の便せんを指に挟み、照れくさそうにはにかんだ。

「だからかな。浮かれて、早く着いちまった」

 
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