千年の眠りから覚めれば
「しょうがない、起きるか……」
衣装箪笥から特に変わったデザインでもない
中学校の制服のセーラー服を取り出して
姿見の前で着替える。
「あ、白〜そういえばさぁ来月
修学旅行で京都行くんだよね」
「へ〜那雪まえから行きたいって言ってたしよかったじゃん」
「んー、それがさぁー、お母さんたちがね〜」
ブラ1枚のあられもない姿の那雪に、
白は一瞬目を細めてため息をついた。
「てゆーか毎朝のことだけど那雪、
俺の前で普通に着替えるってどうよ」
「え?なんで?別に白の前なら気にしないよ
減るものじゃないし。」
どうも那雪には女子として白(♂)の前で着替えることに
全く抵抗というか恥じらいというか、そんなものは無いようだ。
白はまぁ別にいいんだけどさぁ、とだけ言うと
ごろんと寝そべって、近くに落ちていた本を読み始めた。
寝起きの悪い那雪がちまちまダラダラと着替えているのを
見越して、白は本から目をそらさずに言った。
「ところで那雪。今何時だと思う?」
「え、だから5時は……
……この時計、ちょっと調子悪いみたい
変だなぁ短い針が7指してるよ
あとでおとーさんに直してもらわないと。
これじゃあ朝練を私が寝過ごしたみたいになってるよぉ
やだぁもぉう〜」
沖縄出身(自称王子様)の某芸能人のように
(※オカマではない)
てへっと言う那雪に白は冷たい目をむける。
「那雪、そんなこと言ってる暇あるの?」
カッチコッチ……と
時計の音が静まり返った部屋に響いた。
Y
A
B
A
I
「やばいやばいやばいやばいやばい!!!!!!」
ようやっと焦り出した様子の那雪だが、
時すでに遅し、だった。
ガラガラガラッと雷の轟くような音と共に
勢いよく障子が開いた。
……というより叩きつけられた、と言った方が正しい気もしてくる。
「なぁーーーゆぅーーーーーきぃいーーーーー!!」
「はい!!」
障子の隣に立っているのは黒髪ショートカットで
前髪をオレンジ色のピンで留めている、
白装束姿の女の子だった。
「何時だと思ってるのーーーー!!」
「ゴメンなさああああい!!!」
あまりの迫力に那雪は土下座しそうになった。
「ゴメンですんだらこの体たらくがあるかああああ!??」
「ううぅ、お、落ち着いて呉羽!」
呉羽と呼ばれたその少女は、
つり目で横に長い目を更に吊らせて
雷を落とした。
「落ち着けるかこのあほぽんたん!!」
やや死語がまじる呉羽だった。
「朝練をサボるなってあっ!れっ!ほっっっっ!ど言ってるのに!」
「いやあの、だから、その、ね……?」
呉羽のあまりの剣幕にたじたじとする那雪は、
白に助けを求めるも、白は関係ないと言うように
くるりと背を向けてマンガを読み出す。
裏切り者ぉ……!と那雪は心の中で叫んだ。
「那雪、ちゃんと聞いてる!?!」
「も、勿論ですとも!おほほほほほ!」
「もう!!那雪のせいで連帯責任だかなんだかで、
二人で1週間庭掃除しなきゃいけなくなったんだからね!」
「は、はい……」
「いいわね!?過ぎたことはもうしょうがないけど、
これからは絶対寝坊しないでよ!?」
「はい……」
ぷんすこぷんすこ怒りながら、呉羽は那雪の部屋を出ていった。
「あ、嵐が去った……」
ふーぅ……と、
那雪はおもわずため息をついた。