千年の眠りから覚めれば
それから
大きな木の門を抜けて学校まで続くアスファルトの道を
並んで歩きながら呉羽はふと問うた。
「そういえば、
那雪あの二人の名前とか本家入りのこととか
なんで知ってるの?」
今日初めてあったのに、と首をかしげると、
那雪はきょとん、と呉羽の方を向いた。
「前に分家に遊びに行った時に、会ったよ?」
覚えてない?と続ける。
「え!嘘、覚えてない……
それってどこの分家行った時?」
「えーっと、岩手?」
「岩手……ってそれ6歳の時那雪が家出したやつ!?」
「あれ、そうだっけ?」
けろん、とことなさげに小首をかしげる那雪に
呉羽は呆れたようにため息をつく。
「そうだよ……
ていうか、九年前に会った人なんてよく覚えてるわね……」
呉羽がやけに苦々しい表情なのにはわけがある。
那雪は昔からひどい放浪癖の様なものがあった。
九年前の事件では、呉羽と本家の庭で遊んでいて、
呉羽が水を飲みにその場を離れて、戻ってきた時には
那雪は消えていた。
一日経っても帰ってこなかったのに焦り、
本家総出で探し回っていたが二日三日経っても居ないので
全国の分家に電報をうつと、その翌日
岩手の森奥で那雪が発見された。
分家の人間がたまたま森の方に出向いていたら、
白装束姿のままの那雪はきょとんとした顔で
森の中にたたずんでいたらしい。
「……まぁ、あんだけお世話になったからね
覚えてても不思議はないけど。
家出した本人はこんなのほほんとしてるけど、
あの時はほんとに焦ったんだからね!?」
「ご〜め〜ん〜、て」
「ごめんで済むか!
あの時は天狗に攫われでもしたのかとか、
昔ゆゆしい話すら
お母さん達の間で出てたんだからね?!
下手したら山がりしてたかもしれないんだから」
「陰陽師の子が天狗にさらわれるとは笑えるね」
「笑い事じゃない!洒落にもならないわよほんとにもう……!」
憤る呉羽に、那雪はただひたすら
あははと苦笑いしかできなかった。