お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「お疲れさま、乾杯!!」スパークリングワインが入ったグラスで乾杯をする。
アンチョビと魚介類のトマトベースのバジルパスタ、ビーンサラダ、ドイツパン、デザートはフルーツのチョコがけ。

「すごい!イタリアンレストランみたいに本格的だね。すごく美味しい。パスタの酸味にアンチョビと鷹の爪が利いていて色んな味が楽しめるね」

「麺硬めでよかったかな?」
「うん。絶妙な茹で加減だよ。自分ですると何やかんやしてて、茹ですぎちゃうんだよね」

「何やかんやって?」
「うーん。手際が悪いのと、今それ考えなくていいでしょ?的な事を考えちゃう」
「例えば?」
「お昼ご飯パスタにしたけど、夜何しようとか」
「確かに余計だよね」先生は綺麗にソースを絡めとり、パスタを口に運ぶ。

「先生独り暮らししてたの?やけに手際がいいし」
「僕?まあ独身の頃少しね。けど、独身の頃ってほとんどしてなかったよ」
「・・・結婚してからって事?」スパークリングワインを飲みながら、話の流れから先生の結婚生活について言及してみる。

「・・・共働きだったからね。僕が早く仕事が終わった日は作ってた。けど、僕が作るとなると香辛料とか調味料に凝るから、お金がかかるって怒られたりしたよ」

「優しい旦那さんじゃない。先生。でも仕事遅いと共働きだとしんどいよね、奥さんも、ご飯作りたくないとかあるよね」
「まあね。そんな時は仕事終わりに待ち合わせて、外で夜ご飯したりしてたよ」
「ちょっとしたデートだよね。理想だな、私の・・・」
「あのさ・・・いや、いいんだ」
先生は何か言いかけて口をつぐんだ。
私は構わずに続ける。
「先生、ちゃんと家に帰ってる?最近、ここで寝泊まりしてない?」




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