お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「どうして泣いているの?」先生は悲しそうな顔をして私をのぞきこむ。

私は先生のを口から離して、こう答える。

「・・・お口にほしいもん。いっぱいいっぱい1滴残さずに飲み干すの、先生を。私は子宮には注いでもらえないから、せめて口で・・・この部屋は好きよ。でも、匣(はこ)の中のカナリアみたいだと、時々感じるの。誰も知られてはいけないから・・・」

心の奥底で圧し殺そうとしていた思い。私は愛されても奥さんとは違う。欲しくても子宮に貴方は分身を注いではくれない。それなら・・・。

先生は何も言わずに、目を伏せる。こんな事を言う私を、煩わしいと思ったのだろう。面倒くさい女だと思われると、途端に逃げ腰になる男性は多いものだ。

こんな発言をした自分が煩わしい。

「ごめんなさい。もう言わない・・・煩わしいわよね、こんな事言うなんて」
先生に背中を向けてソファーベッドから降りた。

嫌われたかもしれない。服を拾ろおうとした。
「何してるの?」
「帰るの。嫌いになったでしょう?」
「どうしてそう決めるつけるの?自分で・・・いつもいつも」
「・・・何も言ってくれないじゃない。それが答えなのかと思うでしょ?」








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