お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
近頃は寝たきりの患者さんが増えて、クリスマス会をホールまで出てきて出来る患者さんが、年々減ってきているのが寂しい。

クリスマスメニューを用意する数もそれに比例するかのように減っている。胃や鼻からチューブを入れている経管栄養の患者さんが増えてきている。食事介助の手は減るが、ナースが変わりにその経管栄養のボトルを用意してセットしていく事が増えていた。

それでも、患者さんに喜んでもらおうと誰かが綿菓子を作る機械を借りてきたようだった。クリスマス会まで医療器などが置かれている器材庫に、その機械が置かれていて、子供の頃のお祭りで買った綿菓子を懐かしく思い出していた。

当たり前だけど、人は変わっていく。変わらざるを得ない。ここの狭い病院でさえ毎日何かしら変わっていく。歳を重ねて、このままでいいのかと考える機会が増えてきた。

先生の事は相変わらず好きだ。この関係に、当初より私はのめり込んでいるのではないだろうか。そんな事をぼんやりと考えているうちに、休み時間が終わりに近づき、皆持ち場に戻ったようだ。

器材庫に鍵をかける。自分の秘密のタワーマンションの鍵が頭をよぎった。いつまであの鍵を使うことが出来るのだろうか?いつまであの部屋はそこにあるのだろうか。

ちゃりん、と器材庫の鍵を落としてしまった。慌てて拾いあげようとすると、その落とした鍵を拾おうと、手を伸ばした人物の手と触れる。

「考え事していたのか?鍵を落として」
「事務長・・・」

「最近様子がおかしいから気になってな」
「・・・」



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