お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

太陽と月

タワーマンションのベランダで二人して月を眺めるのが好きだった。

「月より明るくて華やかな太陽になりたいな」

地味だと言われ続けていた私は、そう言った。

「先生は時に温かく、そして激しく赤く燃える太陽みたい。華やかな大輪の向日葵を惹き付けてやまない、憧れの太陽かな」

口にはしなかったけれど、華やかな大輪の向日葵は先生の奥さんだと思った。

「うーん。僕は太陽なのかな?」
「うん!強いて言えば北風と太陽みたいに、優しい太陽の光かな、先生は」
「じゃあ、君は太陽じゃないとしたら月かな?」

「地味だからそうだよ。自分だけじゃ輝けないなんて、情けなくない?」

「でも月ほど神秘的なものはないよ。古来から人は夜空を見上げて月の歌を詠んだ。昔から身近にあるけれど、わからない事が多いしね」

「月は決して地上から見上げている僕らに裏側を見せてはくれないんだ」
「え?初耳!どうして?」
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