お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
私は車の中、終始無言で窓の外を見ていた。通りすぎるネオンの残像がどこまでも追いかけてくるようだった。

先生はそんな私を尻目に、車のBGMを聞きながら口ずさむ余裕すらあった。

車を停めて外に出ると、潮の香りに海が近いのだと気付かされる。ここは恋人たちで賑わうお洒落なデートスポットの1つだ。

二人して並んで歩く。微妙な距離がお互いの関係を現しているようだった。少し後ろを歩いていた私は、すぐ隣を歩いていた。

私が憮然とした視線を投げ掛けていたせいだろうか?先生はおどけたような顔をして、上のテラスで風にでもあたろうと言って、海沿いのテラスを歩いていく。

「トイレに行ってきます」と言い私はトイレへと向かった。酔いにまかせてこのモヤモヤした気持ちを確認するつもりでいた。

気を持たせるようなフリをして、寸前で交わしてくるような素振りばかり・・・何考えてるんだろう??

トイレから戻ると海を眺めている先生の背中が目に入った。先生のズボンの後ろのポケットには先生の車の鍵が入っている。

奥さんからプレゼントされたという、エルメスのキーケースが鍵とともにポケットから少し顔をのぞかせていた。

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