お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
ブーケは私のとなりの友人の手元に飛んできた。私はそれをキャッチしようと思えば簡単だった。けれど、それをしなかった。

結局はそのままその友人がキャッチし、司会者からコメントを求められ、注目が集まったことで、恥ずかしそうにしていた友人だったが、こうコメントをした。

「私は早生まれなので、順番から言ったら、私の友人で隣にいる詠美が結婚できたらいいなと思っています」

皆の視線が私に集中する。仕方ないので私は「彼氏が今いませんので、絶賛新郎募集中です」と言うと会場はおおいに盛り上がった。

よくこういう結婚式の二次会で、新郎側の友人男性と親密になり結婚するというパターンが多いというが、特に誰とも話さずに、引き出物だけちゃっかり頂いて帰路についた。

明日からまた仕事だ。部所が変わったことで、棚橋先生と職場で顔を合わす機会が激減した。

相変わらず私達は腐れ縁のように続いていた。先生の方から食事に誘われることもあったし、逆もあった。惰性だけの関係になってしまったのか?

何も考えたくなかった。このまま別れを告げた方がいいのはわかっている。

でも、先生を愛していた。鼻腔をくすぐる先生の香りが、まだ私の好きなフレグランスのうちは、大丈夫と自分に言い聞かせていた。
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