お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
降りしきる雨の中、「あー気持ちいいな~これもやりたかったんだ」 

先生は、両手を広げて空を仰ぎ雨を浴びる。

「もしかして、映画の【ショーシャンクの空に】の真似?」

私は笑った。

「そうだよ、よくわかったね・・・涙も何もかも流れてしまったんだね、よかった」
「・・・有名だもん。ショーシャンクは。先生ありがとうね」

電柱の影で優しくキスをしてくれた。

「このままじゃお互い風邪引きそうだから、マンションに行ってシャワーしようか」

ずぶ濡れの二人は、ビニールのシートを座席に敷いて、先生の車に乗り込んだ。

「バスタブに湯をはろうか。寒いでしょ?シャワーしよう」先生はそう言い、濡れた衣服を脱ごうとする私を制して、

「なかなかに、そそるものがあるね。水もしたたる何とかって言うもんね」

吐息まで濡れてしまったかのようだった。漏れる息がいつもより艶めいていたかもしれない。

衣服のままでシャワーを浴び、キスを交わした。湯がバスタブに満ちる時まで、ずぶ濡れのまま愛し合った。

一年足らずの関係なのに、想い出がありすぎた。

ぼんやりと回想していた私の携帯が鳴る。きっと最後になるであろう、先生からの電話だった。いつもは嬉しい電話なのに、と、出るのを少しためらった。

「今着いたよ。君のアパートの下」
「部屋にあがる?」気を強く持たなければ、と自分に言い聞かす。

「いや、よすよ。僕の車の中で話そうか」
「・・・わかった。今から行くね」想い出のタワーマンションの鍵を握りしめ、この恋を終わらせようと、私は部屋を出て、下に降りて行った。




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