お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
朝、出勤前に妻から「今日は排卵日だから早く帰ってきて」と言われる。排卵日に出張なんかが入ると、機嫌が悪くなり、しばらく口をきいてくれなくなる。

なるべく仕事も融通をきかせていたつもりだった。けれど、断りきれない仕事もある。

だんだんとセックスが義務になる。セックスに嫌悪感を抱くようになる。

そのうちセックスが、出来なくなった。

けれど、性欲はたまるので自分で処理した事があった。その後始末をしたティッシュをごみ箱に捨てていたのが見つかり、妻になじられた。

「私を抱かないくせに、こんな事で子種を無駄遣いしないでよ!」妻を抱けないという、申し訳なさはあった。けれど、その時は浮気をしたわけでもなく、自慰行為を咎められ、子種の無駄遣いと言われた事に対しては滅茶苦茶だと思った。

セックス嫌悪症なんてあるかわからないけど、とにかく性を感じさせるものは嫌になった。

それでも妻も頑張っているからと、お互い歩みより、話し合って休み休み頑張ることにした。 

何年かそんな状態が続き、本格的に治療をステップアップする事にした。体内受精だ。僕の精子を妻の子宮に取り込み、着床させるというものだった。

何度も失敗した。妻の体に負担がかかるものであったから、頑張るだけ頑張って無理なら諦めよう、2人でもいいじゃないか、そう僕は言ったんだ。妻は嫌だと言い張った。

僕はずっとセックス嫌悪症だった。妻を抱くことも出来ずに、仕事も多忙を極め、精神的にも追い詰められていたんだ、僕は。

まわりの女は僕のステイタスになびいて、色仕掛けで迫ってくる者もいた。

僕には嫌悪感しかなく、女を武器にする女に対して、吐き気を催すほどだった。

そんな時に君、詠美ちゃんに出会ったんだ。
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