お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
私はそっと先生の背後に忍びより、ポケットからキーケースを抜き取った。

「え?あれ?どうしたの?」今度は逆襲とばかりに私の方が挑発するように笑って鍵を抜き取り、それを顔近くで掲げて勝ち誇ったようにおどけて見せる。

「一体何の真似?」
「何の真似ってその言葉そっくりそのまま先生に返すわ」
「・・・相当酔ってるの?返してくれなきゃ帰れないよ」先生は私の前に手を差し出してきた。

その手をぱちんと叩いて、
「さっきのお店の席で、横並びだと気軽に女の子にボディータッチ出来るって言ったくせに私に触れもしなかったじゃない」

先生は私のリアクションに笑いつつも、
「え?もしかしてそれで怒ってるの?触れてほしかったの?」

ダイレクトにそう言われて、顔が赤くなるのに気がついたけど、どこかひくにひけなかった。
「そうよ。期待させる事ばかりして、何も言わないじゃない。香水の香りだって・・・わけわからないよ」

「・・・ごめん」先生が予想外に真顔になったものだから、私も酔いがまわっていたからって言いすぎました、すいません、と口にしていた。
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