お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
東京に着くなり先生は仕事相手と会うべく、待ち合わせの場所に行く事になった。

残された私はのんびりと、あたりを散策することにした。
「やっぱり神戸より人が多いな」独り言のように呟いて、とりあえずウィンドウショッピングをする事にした。

ショーウインドに自分の姿が写し出された。
「やだ、やっぱり左側がうまく巻けてない」

コテでゆる巻きにした巻き髪の左側のカールがとれてだらんと垂れ下がっている。不器用な私はいつも左側がうまく巻けずにいるのだった。

「今回はうまく巻けたと思ったのにな」
溜め息をついた。何度か熱く熱されたコテを首に当ててしまい、火傷したことがあった。

アザのようにしばらく残るのだけれど、前にそれを見た先生が「え?火傷なの?よかった、って言ったら怒られるかな?」

「どうしてよかったの?」
「他の男にキスマークつけられたのかな?って思って気になっていたから」
「そんなわけないじゃない。誰も取ったりしないよ、私なんて」
「そう?わからないよ?」そう言い。私の火傷の跡をなぞる。

くすぐったさに、身をよじった。
「・・・もし、やきもちやいてくれたんなら嬉しいな」私は照れて先生の首に手を回して背伸びをする。

「やきもちやいてるよ。僕は君のそばにずっといれないから、僕も不安になることがあるんだよ」
「嘘ばっかり」そう言って私は笑った。

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