お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
私は先生との別れの前に、先生の奥さんが不妊治療していた事を始めて知った。

休み休みしていた事もあり、不妊治療は10年近くにもなった。その事から、体外受精も視野に入れていた矢先の奥さんの妊娠だった。

独身だった私は、その大変さも漠然としか受けいれられなかった。

はじめて抱いた罪悪感から、私は身を引いた。こちらから身を引かなくとも、先生から別れを切り出されるのは、時間の問題だっただろう。

私は結婚して、幸いな事に子供に恵まれた。その事から正直に言うと、不妊治療をしていた奥さんの辛さを完全に理解することが出来ない。

しかし、独身だった頃より先生の事を思い返すにつけて、罪の重さをより感じるようになった。
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