お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
エピローグ
先生と別れて、一度だけ会話らしい会話を交わした事があった。吹っ切れたと思っても、いざ言葉を交わすとなると、心の準備を要したのだった。
どうしても言いたかった事があった。
先生が事務長に会うために病院に来ていて、お茶だしは別の後輩の事務員がしようとしていた。
事務長がまた外出先から遅れると電話があったので、事務室で待ってもらっていたのだった。
「お茶だし変わるね」
「え?いいんですか?じゃあお願いします」
事務長室に入った私を見て、先生はお茶を運んで来たのが私だと確認したようだった。別れてからも、お茶を先生に出した事はあるが、今回のように部屋に2人きりというのはなかった。
先生は少し驚いた顔を見せたものの、
「お久しぶり。元気そうだね」と言った。
「お久しぶりです。あの、大分たってて今更なんですけど、赤ちゃん、女の子が産まれたって・・・おめでとうございます。ただ、それだけが言いたかったので」
「・・・ありがとう。詠美ちゃんも結婚するんだってね。幸せになってね」
そう言われて目頭が熱くなった。
「先生・・・ありがとうね。私・・・」
そう言いかけて口をつぐんだ。
「何?」
先生は優しい眼差しを向けてくれた。
「いえ。何でもありません。失礼しました」
先生に礼をして退室した私は、後手でドアを閉めた。
【私、先生が大好きだった。ありがとう】
言えなかった言葉を心の中で反芻した。
どうしても言いたかった事があった。
先生が事務長に会うために病院に来ていて、お茶だしは別の後輩の事務員がしようとしていた。
事務長がまた外出先から遅れると電話があったので、事務室で待ってもらっていたのだった。
「お茶だし変わるね」
「え?いいんですか?じゃあお願いします」
事務長室に入った私を見て、先生はお茶を運んで来たのが私だと確認したようだった。別れてからも、お茶を先生に出した事はあるが、今回のように部屋に2人きりというのはなかった。
先生は少し驚いた顔を見せたものの、
「お久しぶり。元気そうだね」と言った。
「お久しぶりです。あの、大分たってて今更なんですけど、赤ちゃん、女の子が産まれたって・・・おめでとうございます。ただ、それだけが言いたかったので」
「・・・ありがとう。詠美ちゃんも結婚するんだってね。幸せになってね」
そう言われて目頭が熱くなった。
「先生・・・ありがとうね。私・・・」
そう言いかけて口をつぐんだ。
「何?」
先生は優しい眼差しを向けてくれた。
「いえ。何でもありません。失礼しました」
先生に礼をして退室した私は、後手でドアを閉めた。
【私、先生が大好きだった。ありがとう】
言えなかった言葉を心の中で反芻した。