お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
インフォメーションにいた案内係の女性に「松嶋詠美ですけど、先程館内放送で忘れ物が届いているって」

そう言うと、その案内係の女性は「どうしても忘れ物だと言い張っておられるので」と言い、笑いだした。

「笑ってしまってごめんなさいね。こちらが忘れ物です」案内係の女性が手を差し出したその先には・・・。

「お疲れさん!僕を忘れて帰られたら困るな、詠美ちゃん」

ちぃーっす、と言わんばかりに忘れ物だと言い張った先生がインフォメーションのカウンターの中にいたのだ。

忘れ物があると放送してほしいと、インフォメーションの女性に頼み込んだらしい。

「最初さ、僕が迷子になって迷子放送してもらおうかと頭に浮かんだんだけど、さすがに40歳のオッサンが迷子ってさ」先生はそう言って、舌をペロッと出した。

だからって先生が忘れ物?私の?二次会行かなかったんだ・・・。私は笑いが込み上げてきた。それにつられてよかったというばかりに、先生も笑った。

頑なな私の心は、いつしか先生の魔法で溶けていった。先生と始まってからたくさんの魔法をかけられて、貧乳地味子はその度にお姫様になれるのだった。

「・・・素敵な彼氏さんですね、あ、旦那様かしら」そう案内係の女性に言われて、私は誇らしげに先生を見上げて微笑んだ。
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