お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
現在は姿を消してしまったドライブシアター。私の若い頃は衰退の兆しはあったものの、何ヵ所か存在していた。

ただっ広い広場に大きなスクリーンが置かれ、車を並べて停めて、車中からそのスクリーンに映し出される映画を観るのだ。

コーヒーなんかを外で売っていたりした記憶がある。

星空の下で、車の中2人きりでの映画鑑賞。車という密室状態の特別な空間で、愛を交わし、そしてキスを交わしたカップルはどれだけいた事だろう。

映画の内容にもよるけれど、映画のムードも手伝って、2人の時間はより良いものになったはずだ。

はじめて好きな彼女にキスする機会をうかがっていた男性も、雰囲気も手伝ってここなら容易くキスできたかもしれない。

数々のカップルのドラマが生まれたであろう、ドライブシアター。そんなドライブシアターもカップルで賑わっていたけれど、ネットの普及などにより需要がなくなり、姿を消してしまったのは寂しい限りだ。

ドライブシアターなんて、ベタ過ぎると思われただろうか。とにかくキスゲームの賽(さい)を投げる準備は整ったわけだ。

「とにかく楽しみにしているよ」そう言った電話の向こう側の先生はきっと、余裕綽々だったに違いない。
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