お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
倉敷のドライブシアターに着いた時には、もう20時をまわっていた。スクリーン近くは車が沢山並んでいたので、後ろの方に車をつける。映画ももちろん始まっていた。

夕食は済ませたので、コーヒーを買って車の中で飲む。

その夜上映された映画はブラットピット主演の『セブン・イヤーズ・イン・チベット』だった。

ブラットピット演じるオーストリアの有名な登山家ハインリヒ・ハラーが、チベットで過ごした7年間、そして若き日のダライ・ラマとの交流を描いた映画で、大学の歴史学科を出ていた私は、この手の映画が好きで一度観たことのある映画だった。

懐かしいな、とコーヒーをすすりながらスクリーンに観いっていると、先生の視線を感じた。

先生は何も言わずに、私を見ながらコーヒーをすする。

「・・・そんなに見つめられたら、仕掛けようにも出来ないじゃない」 
「もう僕のキスが欲しくなった?まだ着いたばかりでしょ?」そう言い先生は笑う。

「・・・」

キスゲームに勝てる気がしない。どうしよう??

「よっと」

先生は座席のシートを倒して、くつろぎ始めた。

「これってさ、途中でチベットに中国が軍事介入してきて、そこでプラピが演じる主人公がチベットにいれなくなるような感じじゃなかったっけ?」

シートを倒した先生を横目に、私は【いつ仕掛けるか】を思案していて、
「うん、たぶんそんな感じだった」上の空で答えていた。
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