お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
私の問いに先生は間髪入れずに、
「そっくりそのまま君に返すよ。どうして僕といてくれるの?君なら若くて独身の男だっているじゃないか」

「・・・だって好きだから」
「僕も同じだよ」

私は涙が止まらない。
「奥さんの事聞きたくないよ」
「・・・それは謝るよ、ごめん」

優しく肩を抱いてくれ、涙を拭ってくれた。

私は華やかな先生に憧れて、好きになって思いがけず、思いが通じた。

傍にいれる事が何より嬉しいのに、一緒にいることで、先生と不釣り合いだと色々な場面で思い知らされてきた。

頭を撫でながら先生は、
「今日は詠美ちゃんにプレゼントがあるんだ」
私は何?と消えそうな声で呟いた。
「それよりお腹空いたよ。僕のマンションは飲み物しかないから、腹ごしらえしようよ」
「それって、まさか」

先生は私の目の前に鍵をかざして、
「そうだよ、秘密の部屋」

私が笑顔になると
「やっと笑ってくれたね」安心したように先生はそう口にした。
「プレゼントって、その秘密の部屋に招待してくれること?」
「違うよ」

ん?と首をかしげた私に、
「早くいこうよ、お腹空きすぎだよ。さ、何茶漬けにしようかな?」
「うーんとね、私は梅!」
「梅かぁ。あっさりでいいかも。あ、梅って聞くと、唾液が出てきた」

おどけて梅干しを食べたような、酸っぱそうな顔をするから、吹き出してしまった。

「そうだ!お腹が空きすぎてイライラして怒ったんだよ!私」
「ええ?そうなの?とばっちり喰らったわけ?」
「ううん、お腹空きすぎた事にしとくの」
「女の子って、これだから・・・」

何?と睨む私に、
「やっぱ空腹だからだよ、怒りっぽくなるの。そう言う事にしておこう、うん。そうする方が丸くおさまるしね。」

自分に言い聞かせるように、先生はそう言い笑った。

先生との秘密の部屋の時間が、ここから始まるのだ。

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