お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
鍵についていたチャームは、シンデレラのガラスの靴の片方だった。

「正解!それが合鍵。で、ガラスの靴のもう片方はここにあるよ」

先生は、自分で持っていたこの部屋の鍵を私の目の前にかざして、揺らして見せた。

さっきは気がつかなかったけれど、先生が持っている部屋の鍵に、もう片方のガラスの靴のチャームがついていた。それが私の目の前で揺れている。

「もう片方の【ガラスの靴】は僕の手元に置いておくよ。プレゼントはしない。もう片方の靴は僕の所にあるから、2つ揃って、僕の前でシンデレラになれるんだよ。僕の前だけでシンデレラになってね」

私は胸が一杯で、しばらく何も言えずにいた。

「他の男の前でシンデレラにはさせないからね。だからこの片方は、君には渡せない」

合鍵がもらえるなんて思わなかった。シンデレラのチャームの靴の事も・・・。

【僕の前だけでシンデレラになってね。他の男の前で、シンデレラにはさせないからね】

その先生の言葉を、私は心の中で反芻(はんすう)した。

すごく嬉しいのに、思わず照れてしまい、素直になれずに「・・・チャームのガラスの靴なんて、小さすぎてはけないじゃない」

こんな風につい、言ってしまった。

先生はふーっとため息をついて、
「あのさ、ムードぶち壊し。細かい事は深く考えないでよ。せっかく人がさ・・・それを言ったら終わりじゃないか。てか、終わりにしたいの?」

先生は気落ちしたような、そんな素振りを見せた。

「嫌だ、終わりになんかしたくない!」

そう言い泣きそうな顔をすると、「僕もしたくないよ。おいで」と先生は私に手を差し出してきた。
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