お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
夏の始めに買った黒に紫の蝶の柄の浴衣を着込んだ。ようやくこれに袖を通すことが出来た。先生と秘密の部屋の近くの公園で、手持ち花火をする。

「子供の時以来かもしれないな、花火なんて」そう言い懐かしいな、と呟いた先生に、

「本当に?大学のサークルでよくしたよ、花火。夏に海に泳ぎに行って浜辺で打ち上げ花火とか。男の子達がふざけて、ロケット花火をこっちに打ち込んだ時は危ないって怒ったら、マジでへこんでいたよ。女の子たちは、線香花火みたいな手持ちばかりしてたけどね」

そう話すと、手に持っていた線香花火が終わって、その火のついた玉がぽとんと寂しげに落ちた。

「なんか髪型、アップにしているからかな?いつもより大人っぽいし、うなじが綺麗だね。後頭部絶壁じゃないから似合うよ」

「誉めすぎだってば」浴衣姿も誉めてくれたし、私は照れてしまい、顔がほてって熱いと言い、風にあたりたいと言った。

「部屋にもどってベランダで涼もうか?夜景が綺麗だよ」

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