お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
由美子さんは私に向かって手招きし、隣に座わって、と自分が座っている横の席を指差した。

「・・・は、はい」由美子さんの取り巻きと言われる女性たちの視線が痛い。トモミも心配してこちらを見ている。

「前に高級ブランドの○○のお店で松嶋さんを見かけたのだけど、VIPルームから出てきて驚いたわ。後から出てきた男性は彼氏なの?」

あー。やっぱり。自分よりステイタスの高い男と付き合っていたりしたら気に入らないのよね、由美子さん。

「あ、あれは仕事でご一緒させてもらっている方です。・・・あのお店のお得意様らしくて、それで見学がてら私もご一緒させてもらっただけです」

「ふーん、そうなんだ。公認会計士なんだ」

「VIPってことは相当儲けてるはずだし、もし貴女が恋人なら、高級ブランドのプレゼントの1つや2つ、身につけていてもおかしくないわよね。」そう言う由美子さんに、私は何も言わず黙って聞いていた。

「金持ちでもケチな男だったりして。それか、相手が高級ブランドをプレゼントする価値のない人間だとかね」

まわりは酔いもあったのか、クスクスと笑う声が聞こえてきた。

私の事はいいのだけれど、先生の事をケチ呼ばわりされて腹がたってしまった。
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