お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
29歳の誕生日の朝を迎えた。ほとんど寝ていない上に、朝まで泣き通したこともあり、目が腫れていた。

素っぴんだと眠たそうに見られる私の目は、さらに瞼が重たくなり、朝、鏡を見るとさらに不細工に見えてしまった。

最低の誕生日だ。そう思いながら、気分を切り替えることが出来ずに、仕事に向かう準備をした。徒歩で10分ほど離れた職場の病院に向かう。

朝から「詠美、お誕生日おめでとう」と、友人たちからメールが沢山来た。
昼間になってからも先生からメールが来ない。もしかして終わってしまうの?

昨日の先生の落胆した電話の声から、幻滅されたと思ってしまった。また電話するよ、いつもはその言葉をそのまま素直に受け取れるのに、こんな時のあのセリフは【別れのための常套句】で、【また】の機会は永遠に訪れないのだ。

仕事に身が入らず、凡ミスをやらかしてしまった。電話の相手を間違って取り次いだり、発注ミスなど単純なものばかりだった。

事務長に事務長室に来るように言われた。こんな凡ミスは何年もしたことがないので、お説教を食らうのだと思った。さらに足取りが重くなったが、事務長室へと向かった。

「松嶋さん、どうしたんだ?新人みたいなミスばかりして。この所仕事が増えて、やはりキツいか?」

「すいません。仕事量が多いからではありません。私のミスです。考え事をしてて、注意散漫でした。申し訳ありませんでした。以後気をつけます。」

深々と頭を下げる。
「考え事って・・・本当にそれだけか?」

私がそれだけだと言い、口をつぐむと
「・・・棚橋先生と何かあったのか?」
「えっ?」

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