お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「ねえねえ、先生。プレゼント時間指定してるって、宅配便で何か届くとか?」

「違うよ。普通宅配便って、こんな時間に指定ないでしょ?秘密だよ」

「わかった」
それから先生は無言で車を走らせた。
いつもより、窓から見る街の灯りが早く過ぎていくような気がした。

ほどなくして、スピードをあげた先生の車は、秘密のタワーマンションの地下駐車場めがけて、突進するかのように入っていく。

「ごめんね、車飛ばし過ぎたよね。よかった。間に合いそうだ。」

「スピード違反で捕まらなくてよかったね。この格好だし」笑い合う私たち。昨日、夜通し泣き通したあの時間はなんだったのだろう。

「そうだ。部屋の前についたら、自分の合鍵を使って入ってね。まだ一度もつかってないよね」

うん、といいエレベーターに乗り、部屋の前まで来て、合鍵を使って鍵を開け、電気をつける。

部屋の光景に私は思わず「嘘、え?何なの?すごい・・・」と大声で言ってしまっていた。

部屋にはディズニーキャラクターの風船が沢山床に敷き詰めてあったからだ。

「素直に嬉しい。先生ありがとう」
「これはプレゼントじゃないんだ。そうだな、もう少しだよ、指定した時間は」

「?」

「この部屋の電話が23時きっかりに鳴るから、君が電話に出てね。それがプレゼントの1つだよ」

「私宛に?」
「そうだよ。もうすぐだ。」先生は腕時計を見て確認する。

そして23時きっかりに、部屋の電話が鳴った。私は促されるままに、受話器を恐る恐る取った。電話の相手が、私の誕生日を祝ってくれる。

次の瞬間、私は嬉しさのあまり泣き出して、後ろにいる先生に飛び付くようにして、キスをした。

抱きついたまま、しばらく唇を重ねながら、「大好き」そう先生の耳元で囁いた。先生は笑顔を見せて、

「姫はお気に召されたかな?」
「うん・・・」
私はそれ以上何も言えなくなり、しばらく嬉し泣きを続けていた。
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