お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

白濁の過去のトラウマ

風船の海へと体を沈ませ、愛し合った私たち。

いつの間にか、私の合鍵に大好きだったサマンサタバサのジュエリーライン、サマンサティアラの可愛らしい鍵のモチーフのペンダントがつけられていた。

「最高の誕生日をありがとう。合い鍵に何時つけたの?ペンダント」
「ん?さあね。もとからついてたんじゃない?」なんてとぼけて答える。

「仕事と君とは比べるものじゃないからね。でも寂しい思いをさせたのなら、すまない」
「・・・ごめんなさい。時間をさいてくれてるのに、不安になるの、すぐに」

先生の裸の胸に抱かれ、顔を埋めながら不安を口にした。

床には柔らかいフワフワの絨毯がしかれていて、その感触をたしかめるかのように掌で撫でてみる。

「このフワフワの絨毯、気持ちいいね」
「もう秋だしね。じきに冬がくる」

もらったペンダントをかざしてみる。
「鍵モチーフのペンダント可愛い。欲張りかもしれないけど、先生の心の中を開けれる魔法の鍵がほしい」

「僕の心は君でいっぱいなのに、まだ心の奥を開けたいの?何もないのに?」

いつまで一緒にいれるのだろうか?全ては先生次第だ。もちろん私からサヨナラをする選択肢も当然ある。

その時は、そんな選択肢が浮かぶはずもなかった。

「秋はなんだか寂しいね」そうボソッと呟いた言葉に、「会えなくても心は傍にいるからね。月並みな言葉しか言えないけど、赦してね」

先生は仰向けに寝転びながらも天井を見上げてそう言った。信じるしかない。信じられなくなったら、その時点で終わりなのだ。

いつの間にか2人して抱き合って眠っていた。目を覚ますと、あの臭いが鼻についた。

白濁した男性の体液の臭いが、過去のトラウマから苦手になっていた。傍に先生の体液が残された使用済みのゴムが、ティッシュにくるまれ、転がっていた。

昔を思い出した。トラウマが甦る。私はそれをつまみあげ、キッチンスペースに置かれた蓋つきのごみ箱へと投げ入れた。

そして私は何事もなかったかのように、また先生に身を寄せて、愛しい人の体温を感じながら眠りについた。
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