私は滑り台を落ちる夢を見る。
✱✱
朝一番。
鏡に映った自分の顔を見て憂鬱になる。
「うっわなんだこの寝癖!えぐっ」
昨日空色に染めたばかりの髪は、
素晴らしく、もう、清々しく潔く。
くるんっと。外向きにはねていた。
「せめてもっと綺麗にはねてくんねぇかなー……」
洗面所でうなだれていると、
後ろから声がした。
「おい、だりぃ。怜央。
どけろ。チビデブ。ついでにブス」
兄貴の、斗真。茶髪。180cm。
細マッチョ体型。顔は悪くない。
でも口は悪い。
昔は「とーまにぃちゃーん」って
呼んであげてたんだけど。
こんな嫌味野郎、もう「にぃちゃん♡」なんて呼び方は似合わねえから。
「黙れ斗真」
名前呼びしてやってるの。
✱
「つか何?その髪。水色?」
「空色だよ!馬鹿かてめぇ」
「馬鹿じゃねぇから。」
「はあ?お前の茶髪こそなんとかなんねぇの?」
口喧嘩しながら一緒に登校する。
歩幅は相変わらず兄貴のがでけぇ。
それが少し不満で、口先を尖らす。
✱
あ。そうだ昨日……
「兄貴ぃ!」
「んー」
兄貴の唸るような返事は「喋れ」の合図。
「昨日俺『君の名は。』見たじゃん!」
「おー」
「それで帰りにさ、超目があった子が居たんだけど!
俺のみつはちゃんかも」
「きもい極めてんなお前」
「まあ胸はねーけど我慢してやっても…」
ぐっと首根っこをつかまれる。
「お前に女ぁ?貧乳ー?笑わせんなぁ
この髪で?即振られるわ!どあほぉー…… 変態〜っ!」
へらへら笑いながら馬鹿にしてくる兄貴。
プチッと 頭の中で 何かが弾けた。
「あー!?可愛かったぞ!なんかー黒髪で!ちょっとだせぇーけど!!ばり可愛い、ってやつで!」
ニヤッとした兄貴。
あ。やらかした。
と思った刹那、ニヤニヤしながら頭を撫でてくる。
「ほぉー、へぇーぇー……
ばり可愛い、ならぬ ぎゃん可愛い、ってやつね……」
「言ってねーよ!」
✱
キィィーーーー……ン…
「痛っ……」
『怜央くん、怜央くん…………』
「は?兄貴?」
違うか、
兄貴が俺のこと、くん呼びなんて天地がひっくり返ってもありえねーわ…
『……い……届いて……』
何が、届いて、なんだよ。
なんなんだよ。
『…………_______…』
「……え……?」