君が好きだと叫びたい
心ここに在らず、といった感じで、居るはずもないタクトの姿を、大学で、街中で探している自分がいる。


ざらついた日々の中では本当の自分が隠れて、有りもしない幸せな日々を頭で描いては、耳鳴りがしそうになる。


「なぁ、今日ミノリちゃんの家に遊びに行っても良い?漫画たくさん集めてるって聞いたんだけどさ、俺も漫画好きでさぁ、」


名前を呼ばれ、サークルの先輩に話し掛けられていたことに気付いて、ハッと我に返った。

「あ、いいですよ。部屋、散らかってますけど。」

話を聞いていなかったと悟られまいと、慌てて返事を返すと、両脇に座っている友だちが曇った表情で肘を小突いてきた。


「....ちょ、ちょっと。いいの?村尾先輩って、結構チャラいし危ないって聞くよ?」
「断っておいた方がいいんじゃないの、ミノリ....」


まるでライオンに立ち向かう小動物を制止させるような、ひそひそ小声で心配してくる友だち達。


「え、そうなの?でも、漫画読みに来るだけだよ?」


タクトみたいに一緒に面白い話が出来たらいいなぁ、なんてこの時の私は思っていた。


「よし、じゃぁ決まり!バイト終わったらそのまま行くから、待っててねー」


金髪とピアスを揺らしながら村尾先輩が食堂を後にすると、友だち達は「あーあ、」っと顔を抑えながら後ろに仰け反る。


「ミノリ、可愛いのに恋愛経験ゼロだから狙われやすいんだよなぁ。ホントに、今日村尾先輩が家に来てから気を付けてた方が良いよ?」
「なにかあったらすぐに私のバイト先に連絡しておいで、ミノリのアパート近いし、飛んで行くから。スタンガンとか買って帰る?」


物騒な単語が飛び交う会話に首を傾げながら、とりあえず頷いておいた。


「う、うん。ありがとう。スタンガンは、別に良いや。」


どうして、家に遊びに来るだけなのにそこまで心配してくれるんだろう?


みんな、親切だなぁ。

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