カイトウ
失う
なぜそんなにいつもと変わらず、おいしいおいしいって言いながら、おいしそうに食べてくれるの?
お箸を置く音、グラスを置く音、小さく上品な音にその都度びくっとするあたしに気づいてないふりをして。
きっとあなたは、食べ終わったらソファーでくつろぐことなく帰っていく。
ふたりで決めたことだから…
常に手元に置いてた携帯電話、無防備に玄関辺りから鳴りまくる。
それが優しさなの?
今すぐ壊しに行きたいんだけど。
ごちそうさま
あたしはガラス越しに頷いた。
現実逃避の夜空には、皮肉にも星が煌めいている。
そしてやっぱり立ったままジャケットを着て身支度したあなたが、ありがとうと言ってかばんを手にした瞬間、あたしのこころ、からだが爆発。
けれどもあなたは優しくあたしの手からナイフを奪い微笑んで、出ていった。