Open Heart〜密やかに たおやかに〜
急な話の展開に少し驚いた。
「肉?」
「うん、凄く霜降りの松阪牛貰ったんだ」
「へ〜凄いね」
シュウちゃんちの実家は、お金持ちなのでシュウちゃんは美味しい物をたくさん貰うようだ。
「だろ? 食べにくるか?」
「それってシュウちゃんちに行くって事?」
「えっ! ああ、そうなるな」
シュウちゃんは、なんだか少し焦っているようにも見える。
「昨日も行ったのに、今日も?」
昨日も泊まったばかりだ。連続して泊まるのは、嫁入り前だから少しばかり気がひける。
「そうだったな。けど、着替えもあるし、面倒なら、又うちから行けばいいだろ」
はは〜ん。
そうじゃないかと思っていたけど、やはり私が考えていることが当たっているようだ。
ここは、シュウちゃんをもう少し泳がせたい。
「そうだけど、明日はゴミ出しの日だし」
「いやぁ〜無い無い。ゴミ出しだと? 大体が比べる次元でもないけどな、一応聞くぞ。ゴミ出しと松阪牛、どっちが大事?」
私が焼肉やしゃぶしゃぶ、ステーキ、あらゆる肉料理には目が無いと知っていて、シュウちゃんは勝ち誇ったように聞いてきた。
「ゴミ出し」
「うっ、嘘だろ。に、肉好きじゃん、樹里」
「好きだけど、ゴミ出しは大事だよ。ゴミ屋敷になりたくないもん」
動揺しているシュウちゃんを見るのは、凄く面白い。それに、極めてキュートだ。
「…そう、そーだよな。ゴミ出しは、大事だ」
言ってから少し沈黙するシュウちゃん。
ここからどう出てくるのかが、シュウちゃんの腕の見せ所だ。
少ししてから、シュウちゃんは良い事を思いついたみたいに瞳を輝かした。
「じゃ、仕方ないなぁ。俺が松阪牛を持って樹里の家へ行くよ」
ガッカリだ。
ようやく思いついた妙案がソレかと、突っ込みたくなった。
「はぁ? やだ」
「なんで」
「もう、既にお腹空いてるのに、家に帰って更に松阪牛が来るのを待つなんて絶対に無理」
私に意見を反対されて肩を落としてしまうシュウちゃん。
「……それも、そうだな」
シュンとするシュウちゃんを見ていると、なんとも言えず私まで切なくなる。
やっぱり、その顔を笑顔にしてあげたくなる。だから、代案を出してあげた。
「松阪牛はさ、今度にして〜今日は、うちに来る? 簡単なものなら作れるよ。そーね、回鍋肉とか」「回鍋肉! 俺は好物だ」
間髪入れず、多少食い気味に言ってきたシュウちゃん。
にっこり笑うと、シュウちゃんは目が無くなり、頬に笑い皺が出る。
この笑顔を見れると私は妙に幸せになれる。
「そう、ならそうする?」
「ああ、それがいい。松阪牛は明日にすればな。そうだ、そうしよう」
子供みたいに瞳をキラキラ輝かせるシュウちゃん。
プライベートのシュウちゃんは、素直でかなり不器用だ。でも、私は、そんなシュウちゃんが大好き。
きっと、この先の毎日をシュウちゃんと一緒に過ごせるとしたら、それは凄く幸せな事なんだろうなぁと考えていた。