Open Heart〜密やかに たおやかに〜

明るく場を盛り上げてくれる宮本くんのおかげで楽しそうにワインを飲むシュウちゃん。マキも終始笑顔だ。

好きな人たちの笑顔が見られて私も楽しい。

だけど、心の中ではずっと、いつ現れてもおかしくない山田課長の存在が気掛かりで仕方がなかった。

山田課長が現れたら、またシュウちゃんの前で山田課長の恋人としての演技をしなければならない。

それを思うと笑っていても気が重かった。

向かい側に座る宮本くんとマキがドリンクのメニューを仲良く眺めて次に頼むものを決めている時に

「宮路、好きなもの頼め……肉とか」
隣のシュウちゃんが私に話しかけてきてくれた。

あまり、食の進まない私を気にしてくれているようだった。

「あ、はい。どうも」
ぺこりと頭を下げた。

本当は、心配させたくなかった。

でも、それでいてシュウちゃんの優しさに触れた気がして嬉しくなってしまう。


「おっ、そうか、宮路は肉が好きなのかよ。じゃあ、肉料理を追加で頼もう!っていうか、岡田課長は、よく知ってるんですね〜部下の好きな食いもんまで。さすがだな」

私たちの会話を聞いていたらしい宮本くんが、鋭い所をついてきながら、シュウちゃんを感心して眺めている。

「ふ〜ん。じゃあ、岡田課長、私の好きな食べものはわかります?」
マキが意地悪そうな顔をしてシュウちゃんに聞いてきた。その後、マキは私に視線を向けてくる。

意味ありげな表情だ。

マキは、変に鋭いところがある。もしかして、本気で私とシュウちゃんに何かあると考えているのかもしれなかった。



少し考えていたシュウちゃんだったが、やがてパチンと右手の指を鳴らした。
「アスパラだろ?」

「え、やだ! 当たってる。どーして?私、課長に話しましたっけ?」
びっくりしているマキ。

「やり手で部下思いの上司としては当然だろ」
偉そうに胸をはってみせるシュウちゃん。

……覚えてたんだ。
そう、思った。

いつだったろう。
あれは、シュウちゃんがどこからかホワイトアスパラを沢山もらったといい、私の家にそのまま持ってきた事があった。
私が「明日、マキに少しあげてもい〜い?」とシュウちゃんに聞いた。確か、その時にマキのアスパラ好きをシュウちゃんに話したのだ。


「やっぱり、やり手っスよ。しかし、マキさんはアスパラ好きなのかぁ」
素直に感心する宮本くんは、マキに向いて
「俺、アスパラのベーコン巻きが超美味い店を知ってるんですよ。今度一緒に行きません?」
と、早速マキを誘い始めた。


「行きたいなぁ〜。私、本当にアスパラが好きなんですよねー」
マキと宮本くんがアスパラ話で盛り上がると、シュウちゃんは一気にワインを飲み干した。

少しペースが速いように感じる。
大丈夫かな?

つい、そんな風に心配してしまう自分を自嘲してしまう。

バカみたい。もう、私にはシュウちゃんを心配する資格なんかないのに。


「ちょっと、すみません」
そう言って、急に椅子から立ち上がるシュウちゃんを見上げる。
少しだけ顔色がよくないみたいだ。

「あ、はい。どうぞ、ごゆっくり」
宮本くんが返事をする。

やはり、飲みすぎたんじゃ?

目の前ではマキと宮本くんが、アスパラ話でまだ盛り上がっている。


私は「私も……ちょっと」といいながら椅子を引き立ち上がると、シュウちゃんの後をそろりそろりと追いかけた。


店の奥まった場所にある化粧室。
店内からは、化粧室のドアが全く見えないように高い壁によって分断されていた。

壁面や天井が星空照明で照らされた空間は、さながら宇宙空間に彷徨っているような気になってしまう。

化粧室は男女に分かれているため、男性専用の化粧室の中を窺い知ることは不可能だった。

シュウちゃん、お酒はあんまり強くないからな。
あんなにワインを飲んだら、きっと……。


どうしたものかと星空の空間をさまよいながら、しばらく壁の前を立ちうろうろする。

星空を映す照明ライトが、少しずつ動いていた。

シュウちゃん、大丈夫かな……。

すると、少しして男性化粧室のドアが開き、シュウちゃんが私の前に姿を見せた。
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