Open Heart〜密やかに たおやかに〜

新川崎という駅に近くて、割と静かな場所にある小さな2階建てのアパートに私は住んでいる。周りには緑も多く動物園も近い新川崎という駅を私は結構気に入っている。

付き合い出した当初から、遊びに来るたびに治安が悪そうだと、新川崎の街にシュウちゃんは毎回ケチをつける。



「うちに住めばいいのに」
金属板で出来た階段を音を立てて上りながら、シュウちゃんは、また今日も私のアパートにケチをつけた。

「いいよぉ。まだ、結婚してないでしょ」
がさがさとバッグを探り中からカギを出す。

「そうだけど、川崎って治安が悪そうだしな」

「なにそれ、偏見だよね。川崎市民に失礼だよ」

「そうかなぁ」

カギを開けて、ドアを開ける。
「文句あるなら、こなきゃいいのに」

「樹里を心配してるんだよ」


「大丈夫よ。私はそんなにヤワじゃないから」

部屋に上がり料理の前にジャケットを脱ごうとする私を後ろからハグしてくるシュウちゃん。

部屋に入ってきた途端にハグしてくるような男が、新川崎の治安が悪いとか良く言えたものだと思う。

「シュウちゃんってば、もうっ、ダメだって」
私の体をぎゅっと抱きしめて、耳の近くでため息をつく。

「ダメって言われたら、余計にとまらなくなりそう」
シュウちゃんは、私の髪にキスを落としてきた。

「もう、シュウちゃん!」

「ん? やだ?」

「やだよ。まだ、手も洗ってないし。うがいもしてないでしょ」

「でもさ、手を洗って、うがいしてから、さぁ〜キスしようかって風になる? なってくれる?」
シュウちゃんは、ハグしたまま私の横顔を後ろから覗き込んでくる。

「そんなのは、知らない」
可愛すぎて、本当なら抱きしめたくなるような甘え方だが、私は結構お堅い女だ。

そうやすやすと、敵のもくろみには屈したりしない。

「ほらな、普通ならないよ。一旦休みを挟んだら、さぁ、行くぞって、こう盛り上がった雰囲気が台無しというか」

「雰囲気? まったくシュウちゃんってさぁ、帰ってきてそうそう何を考えてんの?」

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