Open Heart〜密やかに たおやかに〜
16、重要なこと
私は朝早く会社の屋上に来ていた。
シュウちゃんが来ないとも限らないから、会わないように屋上へ来るのはやめていた。
だけど、時間も早いし、ほんの少しの間なら、きっと誰にも会わないはず。
冬の朝の肌を刺すような冷たい空気に首を引っ込めて、コートのポケットに両手を入れて澄み渡る空を見上げた。
目の前に広がる水色の空。
横にゆっくり流れていく白く長い雲。
悩んでばかりいても仕方がない。私は私のやれることをするだけだ。
白い息を吐いた時に、扉が開く音がしてきて慌てて機械室の建物の陰に隠れる。
扉から屋上に来た人物に見えないように建物の奥へ奥へと靴音が響かないように注意しながら移動する。
屋上の端にある鉄柵まで歩いてきた靴音が、私の方へ近づいてくるようだ。
身体をかがめて後ずさりした私のお尻が屋上を取り囲む鉄柵に当たってしまい、鉄柵がガシャンと音を立てた。
まずい。
誰だかわからないが、屋上に誰かがいるのを気がつかせてしまった。
ゴクリと唾を飲み込んだとき、建物の陰に顔を覗かせた人物がいた。
「あんた、そんな狭い場所で何やってんだよ」
顔を覗かせたかのは、シュウちゃんではなく山田課長だった。
「山田課長……」
「早く出てこい。ネコにでもなったのか?」
そろそろと建物の陰から出て来た私を見て怪訝そうな表情を浮かべ山田課長。
ジロジロと見ながら私の周りを一周したあげく、山田課長は私のコートのお尻辺りをいきなり叩いてきた。
「ひゃっ! 何するんですか!」
山田課長は、冷たく私を見おろす。
「人を痴漢でも見るみたいに睨むな。バカバカしい。汚れてるから、はたいてやったんだ」
いいながらメガネのフレームを指であげる。
「あ、すいません……ありがとうございます。あの、山田課長」
「あ?」
「どうして、屋上に?」
「早くやっつけたい仕事があってな、早く出勤したら、あんたを見つけたんだ。だから、後をつけてきた」
「そうですか……」
「あんたは、なんで隠れたんだ?」
「それは……その」
山田課長には、言いたくなかった。
私とシュウちゃんの大切な思い出の場所の1つだと話したくなかった。
「言いたくないなら、言わなくていい。だが、それが王子に繋がることなら話は別だ」
「…関係ないです。シュウちゃんとは」
山田課長が疑うような目を向けてきたので目を逸らした。
「ふん、そうか。それなら」
突然、山田課長に腕を引かれた。
「なっ!」
山田課長の体に密着するように引き寄せられた体。
仰け反るようにして、山田課長の顔を見た。
「な、なんですか!山田課長」
腕を掴まれ、腰を引き寄せられた状態になり緊張する。
山田課長の顔がだんだん近づいて来て、私の顔の目の前にまできた。