Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「今日の朝ここへ来いって山田課長に呼ばれたんだ。まさか、樹里がいるとは思わなくて驚いた」
「へ?山田課長に」
あらかじめ、山田課長は、屋上にシュウちゃんを呼び出してたんだ……。そこに私が偶然居合わせた、そういうことのようだ。
「山田課長から、昨日遅くに電話をもらったんだ。それでわかったんだ。親父のこと、親父と樹里が結んだ契約のことを全部洗いざらい話してくれた。実を言うと親父は、俺達を引き離すために、樹里だけじゃなく、俺にも契約を持ちかけてたんだ。」
「シュウちゃんにも?どういうこと?」
「樹里のお父さんにかかる入院費、リハビリ費用、樹里たち家族の生活費、借金。それらを全て肩代わりしてやるって親父が俺にも言ってきたんだ」
「その話をシュウちゃんにも?」
「そう、俺が親父のいう通りに動いて、金持ちの娘と結婚すれば、樹里の家族が困らないだけのお金を出すってね。親父としては、俺と樹里両方に別々に契約話をとりつけ、絶対に結婚させないつもりだっただったんだろうね」
あの契約が私とシュウちゃん、両方に持ちかけたものだったなんて。
「ごめんな、樹里…俺は、あんな小賢しい手を使う親父が恥ずかしいよ」
「そんなこと……」
言いながら、前に病院で私が母さんのことを恥ずかしいと言ったことを思い出していた。
同じだ。
私もシュウちゃんもまるで違う境遇だと思っていたが、案外似ているのかもしれない。
親を恥ずかしいと思い、そんな風に親を思ってしまう自分が一番恥ずかしいと思っている。
そのくせ、親のことを本気では恨んだりできない。
「山田課長のいう通りかもしれない。全ての人が自分の思い通りに生きられる訳じゃない。でも、俺、樹里だけは、樹里だけは俺の手で幸せにしたい。そう思ってる」
今、シュウちゃんのプロポーズめいた言葉を聞いて、私は、どう返事するべきだろう。