Open Heart〜密やかに たおやかに〜
何日かぶりにシュウちゃんと一緒に並んで自宅近くの狭い道を歩いていた。
また、こうしてシュウちゃんと手を繋ぎ歩けることが素直に嬉しかった。
仕事や今後の話は、まだしていない。
昼間、会議室でシュウちゃんが社長と何を話したのかどんな結果になったのかもシュウちゃんには聞いていない。
シュウちゃんから話してくるまで待とうと思っていた。
黙って2人で電車に揺られ、黙って2人で道路を歩いていた。
「寒くない?」
立ち止まって私が巻いていたマフラーをシュウちゃんが首が見えないように直してくれた。
「ありがとう、シュウちゃん」
微笑んで見上げた先にシュウちゃんがいる。
この瞬間が嬉しい。こんな幸せがずっと続いたらどんなに嬉しいだろう。
背伸びをして、シュウちゃんのマフラーを今度は私がなおす。
向かいあって、少しの間、微笑み合う。
また、ゆっくり歩き出して、シュウちゃんは私のアパートを見上げた。
「なんか凄く懐かしく感じるなぁ、このアパートってよく見ると、味わい深い感じする」
「単に古臭いだけでしょ?」
「いや、そうでもない」
鉄製の階段を音を立てて上って、部屋の扉のドアを開けた。
シュウちゃんの靴と私のヒールが並ぶ玄関。
シュウちゃんのコートがウオールハンガーにかかる部屋。そして、何よりも妄想でも幻想でもない本物のシュウちゃんが、うちにいること。
嬉しいな、シュウちゃんがまたこうしていてくれて。
2人でキッチンに立ち、ビールを飲みながら野菜を洗って刻む。
「シュウちゃん、これくらいの味でいい?」
すき焼きの割り下をスプーンで少しすくって、シュウちゃんに味見してもらう。
「うん、いいんじゃないかな」
「じゃ、焼き始めようか」
テーブルに置いたガスコンロの上に鍋を置いて牛脂を入れる。
向かい合って座り、牛肉を焼き始めた。
「樹里、卵は?」
「あ、忘れてた。今、用意するね」
椅子から立ちあがりかけた私にシュウちゃんが
「いいよ、俺が用意するから」
と言ってくれた。
冷蔵庫を開けるシュウちゃんを見ていたら、自然と笑顔になっていた。
優しくてカッコイイシュウちゃん。
また、こうして2人でいられることが夢みたいだ。
シュウちゃんと一緒にいられるなら、こんな風に一緒に御飯が食べられるなら私は他に何もいらない。
…そう思っていた。