Open Heart〜密やかに たおやかに〜
シュウちゃんと夕食を食べた後、2人で交代にお風呂につかりシングルベッドに並んで横になってオレンジ色の電球色に染まる天井を見上げた。
「シュウちゃんちのベッドじゃないと狭いから寝にくいんじゃない?」
横を向いてシュウちゃんの顔を見つめた。
「いや、この方がいい。樹里の体温であったかいから」
天井を向いたままシュウちゃんが微笑んだ。
「そっか、それなら良かった」
また、天井を見ていると布団がもそもそと動いて、シュウちゃんの手が私の手を探り出していた。
握られた手。
握り返して、隣のシュウちゃんを見た。
シュウちゃんもこっちを見ていた。
体の向きを変えて、お互いの顔を見つめた。空いた手を伸ばしシュウちゃんの顔に触れる。
ずっと、こうして触れたかった。
シュウちゃんの頰に指先で触れる。シュウちゃんの腕が私を導き、私はシュウちゃんの胸にぎゅっと抱かれる。
しばらくして、シュウちゃんが私をゆっくり離すと布団を捲りベッドから起き上がった。
「シュウちゃん?」
「……俺、ずるい事を考えてた」
「えっ?」
「樹里を抱こうって思ってたんだ」
抱いてほしい。
私だって、同じ気持ちだ。
それのどこに問題があるのだろう。
「俺、樹里とやっぱり一緒にいられないみたいだ」
「え、どうして」
私もベッドに起き上がる。
「宮本さんとの約束を踏みにじることは出来ない。あの工場に勤める人や家族まで路頭に迷わせることは出来ない。最高の品質、日本一を誇れるような新ブランド商品を作るために、宮本さんとは協力し合う…そう約束をしたんだ」
「それが、私とシュウちゃんの仲にどう関係してくるの?」
「今日、会議室で親父に言われた。俺が樹里と別れれば、別れて美奈と結婚すれば……宮本さんとの契約は守られるって」
「えっ…」
社長との話し合いの結果がコレなのだろうか。
つまり、私とシュウちゃんが別れれば、宮本くんの会社は守られる。別れなければ宮本くんの会社は倒産の危機に追い込まれる、そういうことだろうか。
社長は、是が非でも私をシュウちゃんとは結婚させたくないのだ。
こんな風に反対されることに胸が痛くなる。
「樹里、何百人もの人の運命を俺が変える訳にはいかない……」
ベッドから下りるシュウちゃん。
シュウちゃんの言いたいことは、わかる。
頭では理解出来る。
私たちが別れれば、宮本くんや宮本くんの工場に勤める人、その家族が平穏な日々を送れる。
平凡な日々がどんなに幸せか、私にはわかる。
うちも苦労が耐えない家庭だから、よく理解出来る。
一家の大黒柱が、突然職を失うことは、大変な苦労と悲しみを生む。その悲しみや辛さが、家族に亀裂を生むことにもなりかねないのだ。