Open Heart〜密やかに たおやかに〜
18、クリスマスイブ
昼近くになってからマキに呼び出されていた。
川崎駅から直結しているショッピングモールの中央広場には、いくつもの白い輪っかで作られたジャングルジムみたいな形に積まれた大きな置物があった。
こんな置物あったかな?
クリスマスソングが流れるショッピングモール、どの店もクリスマスの飾りに余念がない。
そうだ。
今日はクリスマスイブだった。
色々なことが、最近ありすぎた為に、すっかりクリスマスの日を見失っていた。
マキとの待ち合わせの場所は、ショッピングモール内の飲食店だ。
ハワイに本店がありパンケーキが話題の有名店。
エスカレーターを使い、寒くて鼻をすすりながら店へ急いだ。
パンケーキ店の中へ入り並んでいる人に頭を下げ小声でお店の人に「待ち合わせなんです」と伝え店内を覗く。
先に席に座り山みたいにそびえた生クリームの乗ったパンケーキを前にして座るマキが手を上げた。
「こっちよ、樹里」
マキがいる4人がけの席に行き、向かい側の椅子に座ってパンケーキを眺めた。
「すごいね、この生クリーム。マキ生クリーム苦手じゃないっけ?」
「いいのよ、私のじゃないから」
「え? どういうこと?」
テーブルには、確かに他の人がいた気配がある。テーブルには水が入っているグラスが2つあるのだ。
「誰かいるの?」
マキにそう聞いた矢先に両肩をバンッと叩かれた。
「いっ!」
痛いと思いながら、後ろを見て驚いていた。
「み、宮本くん」
「よっ! オッス、宮路。元気か?」
相変わらず元気がいい宮本くん。昨日、土下座をした宮本くんを思い出して、何と無く気まづい。
テーブルに来ていたパンケーキを見て声を上げた。
「うわっ、これ想像以上にうまそ! 半分食べるか?宮路」
「ううん。それより、2人がどうして?」
早速フォークを持った宮本くんが私をジロリと見た。
「んなことは、どうだっていいんだよ」
「どうだっていいって言ってもさぁ」
2人に休日の昼間から呼ばれる意味がわからない。どちらかと言えば、私は昨夜からずっと落ち込んでいる。大盛りの生クリームやパンケーキを気分にはならなかった。
胸やけしそう。
今日は、明るく笑ったり出来ないのに。
マキってば、どうして私を呼んだんだろ。
「なに、どんよりしてんだよ。この世の終わりでも来たか?」
「どんよりって言っても……宮本くんこそ、そのぅ、大丈夫?」
「出た、宮路、お前さぁ俺のこと、舐めてんの?」
「え?」
ムッとしたような顔をした宮本くんは、生クリームをフォークですくい豪快に口へ入れた。
宮本くんの隣に座るマキはコーヒーカップを持ち上げながら、私を見つめてきた。
「樹里、あんたさ本当は岡田課長と付き合ってたの?」
「どうして、そんなこと?」
マキに代わって、今度は宮本くんが口を開いた。
「昨日、会議室で社長が言ってたんだよ。岡田課長が社長のいう約束通りに行動するなら、うちの工場と契約する。でも、いう通りにしないなら岡田課長と山田課長はクビ。うちの工場とも契約しないってな」
「……そう」
胸が痛くなる。
腫れぼったい瞼が私の今の気持ちみたいに重くて、開くのに力がいる。
「何が、『そう』なんだよ」
私の声色をきみ悪く真似てみせる宮本くん。
「心配しなくても大丈夫だよ。宮本くん。シ、岡田課長は、社長との約束を守るって言ってたから」
作り笑いをした私の前に、お店の人がお水の入ったグラスを運んできて「お決まりの頃、また来ますね」といい、メニューと一緒に置いていく。
「お前、俺のこと誰だと思ってんの?」
宮本くんが、怖い顔をして私を睨んできた。