Open Heart〜密やかに たおやかに〜
「シュウちゃんってば、いやらしい」
「な、なんでだよ。当たり前の感情だろ。好きなんだし、付き合ってるんだし、婚約もしてる」
「言っておくけどね、婚約してるとか結婚してるとか、もはや、そういうのは関係ないからね」
「え、なんで。もしかして、気分じゃなかった?」
「気分じゃないとか、気分だとかの次元じゃないの。先に手を洗うか洗わないか、ごはんを食べるか食べないかよ」
「訳がわかんね〜〜」
髪の毛をわさわさとかきむしるシュウちゃん。
「いーから、ほらシュウちゃん、手を洗って」
髪がボサボサになったシュウちゃんの背中を押してキッチンへ向かわせる。
「わかったわかった。手を洗ってうがいしてごはんだろ? は〜あ」
ぶつぶつ言いながらもコートとジャケットを脱いで私に預け、シュウちゃんはシャツの腕をまくり始めた。
預かったシュウちゃんのコートとジャケットを持ってタンスの所へ行き、ハンガーにかけてから私もジャケットを脱いだ。
シュウちゃんは、冷蔵庫の扉を開けて首を突っ込んでいる。
「なんか飲んで、軽くつまみながら、作るだろ?」
家で食べる時は、いつも軽くビールを飲み、つまみを食べながら料理を2人で作るのがパターンだ。
「うん。キムチ入ってるでしょう」
「どこ? 1番下の段?」
「うん。奥に入ってない?」
髪をゴムで縛りながら、シンクへ行きブラウスの袖をまくって手を洗う。
「あった、あった」
シュウちゃんは、冷蔵庫から缶ビール2本とキムチが入っているタッパーを取り出してシンクの横にある天板の上に置いた。
「先に乾杯してから始めよう。ほら」
プルトップを開けてから私に缶ビールを渡してくれるシュウちゃん。
「ありがとう」
「いーえ、今日もお疲れ」
シュウちゃんは缶ビールを持って少し上げてみせた。
「お疲れさま、シュウちゃん」
缶ビールをカツンと合わせて、ぐびっとひと口飲む。
「ん〜たまらんなぁ。仕事終わりのビールは最高」シュウちゃんは、ビールのCMに出ている俳優みたいに『くぁ〜』って旨そうに唸りながらビールを味わう。
お箸を2膳出して、タッパーを開けると途端にキムチのにおいが辺りに充満していく。
「さてと、俺は何からやろうか?」
やる気を出してる人みたいに腕まくりするシュウちゃん。
「ん〜とね。キャベツ切ってくれる?」
「了解」
爽やかな笑顔をみせて、シュウちゃんは冷蔵庫横の壁にひっかけてあるお揃いのエプロンに手を伸ばした。