Open Heart〜密やかに たおやかに〜


マキに連れられて中央広場に行くと沢山の人が、同じようにしてあるものを見上げていた。

「綺麗」

「ちょっと、ここで待ってて」
マキがスマホを出して、耳にあてながら電話でもしに行くのか私から離れていく。



昼間見た時は、ただの白いジャングルジムみたいな置物だった。ところが、陽が落ちた今は……。


ライトアップされ夜空に輝くクリスマスツリーに変身していた。


ツリーだったんだ……コレ。


そうだよね、この時期にジャングルジムな訳がないか。


見上げるクリスマスツリー。
黄金色に光るライト。おごそかに流れるクリスマスソング。


今日はクリスマスイブ。


マキが来ないうちに段々冷たくなってきた手の指先。それを両手の指で擦り合わせていた時、私の手は、目の前に現れた人物の手によりそっと包まれていた。


「シュウちゃん!」

「待った?」

「マキは?」

「帰ったよ。俺と入れ替わり」

マキってば、こういうことか。

宮本くんもマキも2人して……。
なんだか、すごくおせっかいなんだから。


本当は、あの2人の優しさに感動していた。まったく、何にもいわないんだから……。

「ふーん、そっか。シュウちゃんってば遅い!随分待ったんだから」
ぷぅっと頰を膨らませてみせる。

「マジで? ごめん。慌ててきたんだけど……あっ、コレ」
私の手を触っていたシュウちゃんが何かに気がついたようだ。


「はめてくれたんだな、コレ」

「うん。初めて、はめてみた、どお?」
シュウちゃんからもらったデザインリングをさっき化粧室ではめてきたのだ。

もう、シュウちゃんに見せられるとは思ってなかった。

「似合うよ、とっても」
シュウちゃんは私の指に触れながらリングを見つめる。


嬉しそうなシュウちゃんの笑顔、そして大好きな頰のしわが見られた。


「シュウちゃんってば、そんな当たり前なことしか言えないの? なんだか私、自分の将来を悲観しちゃいそう」

「え? なんでだよ。じゃあ、なんて言えばいいんだ?」
からかうとすぐに慌てるシュウちゃんは、相変わらず可愛い。

こういうシュウちゃんが可愛くて仕方ない。

「言わなくて大丈夫だよ。シュウちゃんが可愛すぎて、私だけが、ますますシュウちゃんを好きになるなぁ〜って悲観してただけだから」

「なんだよ、驚いた。樹里だけじゃないよ。俺の方が、想いは強っ!はっ、へっ、ヘックション」

突然、大事なセリフを言う時にくしゃみをしたシュウちゃん。


「呆れた」

「仕方ないだろ、そんなんで呆れるなよ。ティッシュある?」

バッグからティッシュを取り出しシュウちゃんに手渡した。

「はい、どうぞ。呆れたのは、シュウちゃんのくしゃみよ。ハックションならまだマシよ。ヘックションだって……呆れちゃう」

「くしゃみに呆れたとかいうなよ、俺はさぁ…」

また、可愛くて仕方ないシュウちゃんの呆れちゃうような言い訳は聞きたくない。

だから、シュウの肩に手を伸ばし、つま先だちしてシュウちゃんの唇にキスをした。



これからは、ずっと聞いてあげる。
シュウちゃんの呆れちゃうような言い訳も時には愚痴だって、恥ずかしいくらいにくさい台詞も……シュウちゃんの言葉ならずっと。


だって、これからは、ずっと一緒なんだから……。




だから、今は少し黙って。

私とキスをしていて……。




〜fin〜


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