Open Heart〜密やかに たおやかに〜

1時間位して「宮路、ちょっと」廊下の方からシュウちゃんに呼ばれた。どうやら、会議は終わったみたいだ。

「はい」
なんだろう。
プライベートな話は、会社でしないはずだけど。

頭を傾げながらシュウちゃんの元へ行くと、シュウちゃんの後ろにいたらしい宮本くんが飛び出てきた。

「よっ! 宮路」

「宮本くん」

「せっかく会えたんだから、帰る前に宮路に挨拶したいって岡田課長にお願いしたんだ」

「あら、そうなんだ」
ちらっとシュウちゃんを見る。
無表情のシュウちゃんは、私の方を見ようとはしない。どうやら、目があうのをさけているようだ。

「まあ、せっかくだから……宮路、挨拶だけしてもらえ」
シュウちゃんは、私の肩をポンと叩いて自分の席に向かっていく。心なしか『挨拶だけ』ってワードに力が入っていたように聞こえた。

私と宮本くんを置いてゆっくり歩いていくシュウちゃん。ジッとシュウちゃんの背中を見ていると宮本くんが話しかけてきた。

「宮路、今夜空いてる?メシでも行こう」

宮本くんの大きな声が聞こえたようで、明らかに肩がピクッとして足を止めたシュウちゃん。

「えっ、う〜ん」
宮本くんと2人でごはんを食べに行くなんてシュウちゃんに悪いだろうか?
心配するだろうか?そんな風に考えたら煮え切らない返事になっていた。

「明日は?」

「明日、う〜ん」

「何、彼氏でもいんの? 結婚はしてないんだろ? 苗字が宮路のままだし」

「え、うん」

「久しぶりに会った同級生に会うのもダメとか言うようなダセェ男と付き合ってんのかよ。小せえなぁ〜」

ださくて小さい男。

シュウちゃんは、そんな小さい男じゃない。シュウちゃんを馬鹿にされたように感じた。優しくて、まあ、そりゃあ少しばかり不器用だけど、大人の男性だし年上だ。

小さい男の理由がない。

「そんなわけないよ。彼氏なんていないし……今日、い、行こうよ。ごはん」
売られた喧嘩をかうみたいにして、宮本くんに返事をしていた。

「い〜のかよ」

「うん。全然平気」

その後、宮本くんはラインのアドレスを書いたメモをくれた。
「昼にでも連絡くれよ」

「わかった」

「じゃあな、宮路」
軽く手を上げた宮本くん。その姿とその言葉が懐かしい思い出と重なる。

中学の頃、席が隣になった事があった。
帰り支度をしていた私に宮本くんが良くそう言って挨拶してくれたのを思い出す。

この感じ、なんか懐かしいなぁ〜。

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