Open Heart〜密やかに たおやかに〜
体がぐらぐらと揺れていた。
「……起きろ。いい加減に目を覚ませ」
地震?
地震だとしたら、随分すごい揺れ方だ。震度6はありそう。
「おい! 起きろったら起きろ!」
耳のそばでした大きな声にびっくりして顔をあげると、ぼやけた視界が広がった。なんどか瞬きを繰り返していたら、目の前にピンクの物体が下りてきた。
なに、これ。
あ~はいはい、私のスマホですね。
今はスマホをピンクの折りたたみ式ケースに入れている。液晶画面が見えるようにハート型の小窓がついている所がお気に入りだ。
ぶら下がっているスマホを手で掴み、何の気なしにケースを開いた。
「ああ!! やだ、信じられない、割れてるじゃない!」
驚いて椅子から立ち上がる。
なんと開いたスマホの液晶画面には、蜘蛛の巣状に広がるようにひびが入っていた。
ちょっと、うたた寝している間に誰かに何かされたのかもしれない!
頭にかあっと血が上ってきていた。スマホを掴んだ手を震わせながら顔を上げると丁度、目の前に人が立っていた。
「うっわっ!!」
びっくりしすぎて腰を抜かしそうになった。なんとか倒れずに立てていたのが不思議なくらいだ。
「岡田課長……どうして」
「どうしてだと? 教えてやろうか? あ? 宮路(みやじ)」
目を吊り上げた岡田課長が目の前にいたことには、かなり驚いていた。
同じアパレル会社で同じ販売企画部の課長なのだから、同じフロアにいて当たり前といえば当たり前だ。
要は、いる場所が問題だ。
私のデスクのすぐそばにいたことに驚いたのだ。
今は、まだお昼休み時間だ。
居眠りをしていても、問題は問われないはずだった。
だが、デスクに置いてある目覚まし時計に目をやって、思わず驚いていた。
「ええっ、もう1時15分になってるけど! ちょっとぉこの時計、気は確かなの」
時計を持ち上げ、時計の後をみたり、上下に振ったりしてみた。
「アホか。お前の気の方が確かなのか? その時計は壊れてない。なぜなら、見ろ!」
岡田課長の両手で顔を押さえられ、壁にある時計を無理矢理に見させられていた。
フロアにかけられている壁掛け時計が示す時刻は、デスクの時計と同じ1時15分だった。
「岡田課長、あの時計やばいですよ。電池を換えたほうがいいんじゃないでしょうか」
岡田課長は、人差し指で私の脳天をこつこつと突いてきた。
「やばいのは、お前のココだ」