Open Heart〜密やかに たおやかに〜
駅から近い居酒屋。
魚系の料理を売りにしているようで、店の看板にも店内にも魚の絵が描いてある。
「俺さ、宮路に会えてすげ〜嬉しいんだ。好きだった人に再会するってのは、喜ばしいことだ」
ビールの入ったジョッキを豪快に飲む宮本くん。
「好きだった人って、私のこと?」
「そう」
宮本くんが店員さんを呼び止め、何かオーダーしている様子を驚いて見つめる。
宮本くんって私のこと好きだったの?
凄くビックリだ。中学の頃は全然そんな感じしなかった。片思いしてくれてたのだろうか?
誰かに思われていたことは、とても嬉しい。でも、今告白されても、それは困る。せっかく再会した同級生を振ることは避けたい。幸せ気分でいる宮本くんを無駄に凹ませたくない。やはり、そうなる前に先手を打つべきだ。
「あのー宮本くん、私さ」
「あ?」
唐揚げを箸で掴んだ状態のままで、宮本くんが私を見る。
「好きな人って、今私のこと言ってくれたでしょう? 嬉しいんだけどね」
まずい。いい断り方が浮かばない。告白される前にうまく断らないといけないのに。
箸を握りしめて、頭をフル回転させていた。何とか丸く話を収めて、楽しかったね〜で今夜を終えたい。そればかりを考えていた。
「嬉しいよなぁ、本当に。俺は、あのクラスの奴全員好きだったなぁ。ほら、卒業式で全員泣いてたよな」
「全員、好きって……さっき、私のことが好きとか言ってたのも、そういう好きの種類?」
「なんだよ。宮路、勘違いすんなよ! 俺がお前を特別に好きだとでも思ったのか? 相変わらずだなぁ、宮路! ぶっはははっ」
バンバンとテーブルを大きな掌で叩いて、大笑いする宮本くん。
勘違いをした私も私だ。
恥ずかしい! その一言に尽きる。
ふん、宮本くんってば、そんな風に馬鹿にして大きな声でいつまでも笑ってればいい。
腹立ちまぎれに私はカルピスサワーを喉を鳴らして一気に飲んだ。